自宅の押し入れや、実家の奥の方に眠る骨董品や美術品の数々。終活の広がりとともに、もしもの時の備えや相続対策として、家の片付けを始める人は増えていますが、この時問題になるのが骨董品や美術品などをどうすれば良いか?ということ。
「どのくらいの価値があるのか知りたい」「相続税がかかるのか気になる」「故人が大切にしていたから捨てるに捨てられない」……そんなお悩みはありませんか?
今回は、年間500件以上の骨董品や美術品の査定・買取を行っている、株式会社東齋の代表取締役、齋藤達彦さんにお話を伺いました。
遺品整理より、生前整理の方がメリットは大きい
ー 骨董品や美術品の査定や買取は、どのようなタイミングでするものなのでしょう?
大きくは、生前の整理と遺品整理の2つに分かれます。
生前の整理は、引っ越しなどを契機に、荷物を整理したいというケースです。
子どもが大学を卒業して家を出て行ったので、少し小さな家に引っ越そうか?とか、施設に入ろうか?とか。そういったタイミングで、「物が多くて全部は持っていけないから」とご相談をいただくことが多いです。
生前整理のメリットは、所有者ご本人の思いを残すことができることです。査定に伺ってお見積もりを出したら、それがきっかけで、「(ご家族に)贈与したい」となることもあります。
次に、遺品整理はお亡くなりになってからご相談をいただくのですが、こちらはお見積もりを出すとすぐに売却となるケースが多いです。ご遺族が主導で進めるので、そこに所有されていた故人の意思はないことが多いです。
また、言い方は難しいのですが、ご遺族がその品物の価値を知らないと分かると、足元を見る買取業者も中にはいます。生前整理のように購入した本人がいらっしゃれば、お客様の方でも購入時の値段は分かっているので、そうした間違いも避けられるでしょう。
やはり、生前に評価してもらう方がメリットは大きいと思います。
ー そんなこともあるのですね。信頼できる買取業者の探し方にコツはありますか?
美術業界でも有力な業者などはデパートにも入っていたりするので、信頼はできると思います。
インターネットで探す方法もありますが、口コミを適当に作っているサイトなどもあるので、それよりはデパートや知り合いの紹介の方が、まだ間違いはないでしょう。
また、もし業者を探すのであればやはり2社ぐらいは見積もりを取った方が良いと思います。
しかし、遺品整理の場合、相続税の関係で、急いで不動産を売却しなくてはならず「1週間で片付けてほしい」とか「1ヵ月以内に処分しなければならない」というご要望も多いです。これでは買取業者や片付け業者をゆっくりと探している時間はありません。
品物を仕分けする時間もなく、一切合切「売却」となり、ご自分の好きな品も残せないといった恐れもあります。さらに、短い時間で片付けるため、処分費用も高くなります。
生前整理を行って、所有者ができるだけ元気な間に品物を資産評価してもらい、売却するもの、ご自身で使うもの、ご家族に譲るものを仕分けして、品物を減らす。不要なものを処分して生活空間を広げておけば、例えば、介護が必要になってすぐに施設に移らなければならないといったときにも動きやすいのではないでしょうか。
ー 骨董品や美術品の鑑定にかかる時間はどのくらいですか?
品物の量にもよりますが、だいたい一戸建ての家でしたら半日、もしくは1日あれば、査定は終わることがほとんどです。
以前、骨董品屋さんが何件も入ったビル1棟の買取査定をしたことはありますが、その時は5日間ぐらいかかりました。しかし、これは本当に珍しいケースです。
ー 意外とすぐに結果がわかるものなのですね。
ただ、中には鑑定が必要な品もあります。
鑑定機関に鑑定を依頼し、「本物です」という評価をいただいてから買取となりますが、この鑑定には1ヵ月から2ヵ月くらいかかります。
作家ごとに所定の鑑定機関が決まっており、有名なところでは東京美術倶楽部というところがあります。また、作家のご遺族など、作品をよく知る人が鑑定をしているケースも多いです。
ー 本物というお墨付きをもらってはじめて、買取になるのですね。
もしかしたら、これもお客様が業者を選ぶ時のポイントになるのかもしれませんね。
本来は鑑定が必要な作家なのに、お客様が知らないのを良いことに「鑑定しなくても大丈夫」、または「贋物です」と、あえて低く評価する業者さんもいると聞いています。
鑑定が必要かどうかをお客様ご自身が知らないと判断はできないので、購入した方から事前に話を伺っておけると良いですね。
誰の作品か?ということだけでも聞いておけば、後からインターネットなどで調べれば、鑑定が必要かどうかはわかるのではないでしょうか。
長く所有していても価値は上がらないものがほとんど。売ると決めたら早めに手放した方がお得なことが多い
ー 買取をお願いしたい場合、まず査定だけしてもらって、その金額を見てから、売るものと残しておくものを決めるという流れでしょうか?
お客様の方でも査定額にご納得いくものと、そうでないものがあると思うので、精査していただいた上で、「これは必要ない」というものを買取させていただいています。
ー 買取ってもらった品を、やはり返して欲しいということはできますか?
基本的にご売却した日を含めて8日間でしたら、クーリング・オフが適用されます。その期間内でしたら返品も受け付けています。
ー 例えば、一度査定してもらって、買取ってもらう決心がつくまでに1ヵ月ぐらい経ってしまったとします。その場合、最初に査定した金額は変わってしまうのでしょうか?
私の場合、大体2週間ぐらいを見積もり期限としてお伝えさせていただいています。というのも、骨董品、美術品も水物なので、相場が変動するものもあるからです。
去年は7,000万円とか8,000万円ぐらいで流通していた絵画が、今では5,000万円ぐらいにまで下がってるということもあります。また、現代アートなどは株価に連動することが多いため、株価が下がると作品の値も下がる傾向があります。
ー 売ると決めたらすぐに売る方が良いわけですね。
そうですね。去年の11月ぐらいに、ある作家さんの香炉のお見積りをしたことがあります。
その時は、40万円でお見積もりしました。しかし、実際に買取らせていただいたのは半年くらい経った後で、その時にはもう、相場が2、3割落ちていました。
後から高くなるケースももちろんありますが、本当にまれです。例えば、日本の骨董品の相場は右肩下がりです。
反対に相場が上がっているのは、中国の美術品。あとは現代アートと言われるものです。それ以外は、相場は下がっているという印象です。
また、8月中旬に、中国の大手不動産会社が40兆円を超える負債で倒産しました。中国美術や現代アートも今後どうなるか見通しが難しいです。
ー 骨董品や美術本は長く所有していればそれだけ価値が上がるものと思っていました。
ルイ・ヴィトンやエルメス、ロレックスといったブランド品は海外マーケットなので、相場が買った時よりも高くなるということもあるかもしれません。
しかし、日本の美術品の多くは日本国内のマーケットでしか需要はありません。ご年配の方が所有していた作品を売りに出して、40代、50代の方々が購入するというケースが多いと思いますが、若い方の中で日本の美術品に興味を持たれる方は少ないようです。
例えば、以前、亡くなられてもう10年ぐらい経った方の遺品を査定したことがあります。故人は茶道の先生で、ご遺族も「お母さんがすごく大切にしてたものだから」とずっと保管していました。
しかし、近現代の茶道具は今、全体的にその価格が下がっています。リーマンショックで茶道具の価格は半額になり、コロナになってお茶会も無くなったため、さらに下がりました。
最近はお茶会もまた始まりましたが、茶道具の価格がV字回復することはないでしょう。なぜならば、茶道人口も400万人から200万人に、この20年間で減り続けているからです。
現在80代の方が若かったバブルの時には皆さんもお金を持っていて、その当時に購入した美術品や骨董品が今、一斉に遺品整理や終活という流れで世に出ています。需要がない中、供給が増えているという状態です。
LINEで写真を送るだけでできる簡単査定も
ー 生前整理や遺品整理で買取られた美術品はその後、どうなるのでしょうか?
大きく分けて2通りあります。前者は一般的な消費者に直接売られるケースです。後者は業者間のオークションに出品され、仕入れた業者を介して、消費者に渡るケースです。
ここで言いますオークションは、古物商許可証を保有した業者がリアルに集い、骨董美術品の競りが行われる市場を指します。私が主催者として関わる都内の某オークションには、100人から150人ぐらいの業者さんが全国からいらっしゃいます。
毎月1回開くオークションでは、大体1,000点から1,200点ぐらいが流通し、買った業者はその後、テナントで販売したり、美術館、あるいはデパートなどに適正な価格でお渡ししています。
ー 最後に、ご自宅に「これ、もしかしたら価値があるんじゃないかな?」という品をお持ちの方に、メッセージをいただけますか?
もちろん、直接電話していただければ1番間違いありませんが、今は、現物を見なくても気軽に査定できる方法もあります。
スマホで写真を撮ってLINEで送るという「LINE査定」も行っていますので、気になるものがございましたら気軽にご相談ください。
「お母さんが、価値があるって言っていたけど……」など、悩んだらちょっと写真を送って気軽に聞いていただければ、お答えはできます。
ー 価値がわかるだけでも、気持ちも落ち着きますね。
そうですね。その価格が付いた理由もお伝えできればと思いますし。そのように使っていただければ嬉しいです。
終活の生前整理とか遺品整理とか、一生に1度あるかないかということだと思います。ご自宅に骨董品や美術品があるという方は、優良な買取業者を見つけるためにも、できるだけ前々から準備するのが良いでしょう。
ー ありがとうございました。