漫画家 河野慶さん
「窓口de終活」をテーマに素敵な漫画を描いてくださった河野慶先生。『復讐の教科書』(講談社 原作/廣瀬俊 漫画/河野慶)をはじめ数々の話題作で知られる河野先生ですが、ご自身も近年、大切なご家族のため終活を進めていらしたとか。今回はそんな河野先生の終活体験についてお話を伺いました。
希望に叶った施設を探すのはかなり大変
-今回、終活の漫画を描くにあたって、河野先生ご自身の経験もあったと伺いました
祖父母の終活ですね。
私は子どものころから22歳まで、両親と姉弟3人、そして祖父母と7人家族で育ちましたので、お祖父ちゃん、お祖母ちゃんは私にとって、とても近しい存在でした。
祖父母は本当に仲の良い夫婦で、祖母が亡くなる1年くらい前までは、お風呂も2人で一緒に入るくらい。最後まで、ほぼ2人ずっと一緒でした。
-お2人は施設に入っていらしたのですか?
最後は施設に入居しましたが、それまでは母がずっと面倒を見ていました。
できれば家で看取りたかったのですが、祖母が体調を崩し、祖父も認知症が始まって、いよいよ施設に入居してもらうしかないという状況になったんです。
施設を探す時は、2人がすぐ近くで暮らせて、できれば毎日、それが無理でも数日おきには会えるようにというのが、母の強い希望でした。
病気の治療もできて、同じ建物内に祖父も入居できるという、母の希望に叶った施設を探すのはかなり大変でした。
たまたま、従姉妹の彼氏さんが介護のお仕事をしていて、とても詳しかったんですね。いろいろ調べてくださって、ベストなところを見つけることができました。
祖父も祖母が亡くなる数日前までは面会もできました。
-希望通りの施設が見つかったんですね
はい。詳しい人が身近にいて本当に運が良かったです。とてもじゃないけど素人だけでは調べられないですよね。
母はパッチワークの講師をしていて、仕事の合間に自分でも調べていたようですが、そんなに時間に余裕があるわけでもないですし。
-施設が見つかるまで、時間はどのくらいかかりました?
半年から1年ぐらいはかかったと思います。
従姉妹の彼氏にいくつか紹介してもらった施設に、一時的に入居してみるところから始めましたが、亡くなった祖母もその時点ではまだ元気だったので、「もう家に帰りたい」みたいな感じで。勝手に脱走を企てたりもしていました。
-施設から脱走ですか?
祖父が祖母を連れてベランダから逃げ出そうとして、転んでけがをしてしまったこともありました。
2人の部屋は施設の2階だったので、もし柵を越えていたら本当に危なかったですよね。「2人を一緒の部屋にしたら駄目だな」とか。試行錯誤みたいなこともありましたね。
-それは大変でしたね。どうしてお祖父さんはまた脱走なんてしようと思ったんでしょう?
祖母が祖父をそそのかすというわけじゃないんですが(笑)
祖父はおっとりしていて、その場にいることをすんなり受け入れてくれるんです。ニコニコと、施設で働く若い人たちと接するのも楽しんでいる。反対に祖母は強気で、どこへ行っても「家に帰る」ってすぐに言い出すんです。
そんな対照的な2人ですが、祖母が「娘にこんなところに入れられた!」みたいな感じで怒り出すと、祖父もだんだんヒートアップしてくるって言いますか。祖母を助けようとしてトラブルが起こっちゃうんです。
-でも、お祖母さんを助けるために脱走しようとするなんて、お祖父さんも素敵ですね
母としては「1週間は休めるかな?」と思ったら、次の日帰ってきたのでびっくりしたようです。
2人が施設にお試しで入ったのは知っていたので、私も次の日に母に電話して「どうなった?」って聞いたら、「もう帰って来てる」って(笑)
-本当に仲の良いお2人だったんですね
そうですね。
今年1月に祖母が亡くなったのですが、ちょうど祖母が他界したころから祖父の認知症が進んで、そこまで祖母に執着するというか、「お母さんどこにいる?」みたいな感じじゃなくなってきたんですよね。
「後悔のない生き方」をしっかり考えておかないと、きっと後悔する
-ご葬儀の準備はどのようにされましたか?
祖父母がずっと以前から契約して、自分たちの葬儀の費用は積み立てで払っていたので、すんなりいきました。田舎なので、葬儀社の選択肢もありませんでしたし。
-「終活」という意識はなくても、すでに終活をされていたんですね
祖父母の世代では、そういうケースは多いのではないでしょうか?
世代的に年金もかなり手厚いですし、保険を利用して貯金もしてたみたいですよね。子供のころ「保険の満期がきたら何か買ってあげるよ」って言われたような記憶もあります。
しかし、私の父や母の世代になると、年金の手取りを聞いても少ないなって思います。
-言われていれば、親の年金の額を把握してる人って少ないのではないでしょうか?
そうですよね。私も祖父母のことが無ければ知りませんでした。
正直なところ、親の年金はもっとあると思ってましたが、見てみるとギリギリだなと。これで孫が何人もいたら、誕生日もいっぱいあって大変だなって感じがします。
そんな年金が僕らの世代になったら、さらに厳しいことになりそうですよね。今回、母が経験したことが、次は自分に降りかかってくるって思いました。
-お祖母さまの終活をご覧になって、河野先生ご自身で変わったことはありますか?
「最期はどうしたい?」みたいに、母と終活について具体的に話をするようになりました。
祖母の件で母もいろいろ病院を回って「こんな病院では死にたくない」という病院と、「ここだったら良いかな」という病院があることに気が付いたって。病院の質って、金額によっても全然違うようですね。
ちなみに母は「なるべく病院で最期を迎えたい」と言ってるので、なるべく良いところにしてあげたいなと思うと、お金を貯めないといけないなって思います。
あと、今度両親や祖父母の件でもたくさん手伝ってくれた従姉妹たちも招待して、旅行に行く予定です。
-旅行は素敵ですね
すごく記憶に残るんですよね、家族旅行って。ある意味、旅行って楽しい想い出を創れる終活なんじゃないでしょうか。
離れて暮らしてると、親とゆっくり話すこともできないですが、旅館で幸せを満喫しながら「最期どうする?」みたいな話もしたいですよね。
父と母が亡くなるまでにあと何回旅行に行けるかな?って思います。何回も連れてってあげたいですね。
-もし今後、万が一のことがあったら「窓口de終活」のサービスがあったら、利用しますか?
利用します。これはサービストークじゃなくて、本当に調べようがないからです。
祖母の施設を探すとき、母もスマホで施設の電話番号などを調べるとかはできたようですが、そこから先、もっと深い情報まで調べることはできていなかったと思います。
こんなにいろんな施設があると、素人では決めきれません。やっぱりプロに聞くしかないんですよね。
-先生の漫画やインタビューを読んでくださった読者にメッセージはありますか?
今回の漫画では、主人公の母親は私の母に似せて描いてます。おじいちゃんおばあちゃんも、ちょっと似ています。
でも、主人公は僕よりも10歳ぐらい若く描いています。
画面的に若いほうが読んでいても面白いだろうというのもあったんですが、もうひとつ、30代とか、若い皆さんに終活について考えて欲しいという狙いもあります。
「後悔のない生き方」みたいなことはしっかり考えておかないと、後悔すると思うんですよね。
私自身、親孝行もしたいし、自分の仕事でももっと成功したいし、子供にもちゃんと残せるものは残したいですし。
収入だけでなく税金とか社会保険とか、その辺のことも考えると、最後まで望むように生きるためには、結構な勉強と、労力が必要だと思います。
なので、漫画を読んで下さった方々が、少しでも早いうちからしっかりと準備をしていただけたら嬉しいですね。
-最後に、終活を経験して今後の先生の作品には何か影響はあるとお考えですか?
終活を通して、上の世代の方々が考えていること、歩まれてきた人生、そしてそれが終わる瞬間を垣間見れたような気がするんです。
そして、その人生を元気に生きてる人にスライドして考えると、その人の人生の先が読めるといいますか。
キャラクターが子供だったら、こういう環境でこう育って、将来的にはこういうふうに中年期を過ごして、最後はこうなるだろうとか。
家族関係も、例えば主人公が高校生だとしたらその親も当然いるわけで。親はどれだけの愛情をもっていたかとか?その家族全体の人生とかストーリーといったものが、客観的に、正しく観察できるようになったように感じています。
バックグラウンドや、過去とか未来まで意識することで、キャラクターの作り込みが、よりリアルにできると言いますか。
優秀な作品というのはそこまで作り込まれているものなので、終活の経験で勉強できたと思います。
-ありがとうございました
河野 慶(かわの けい)
漫画家。1977年生、山口県出身。『ユート』(週刊少年ジャンプ 原作/ほったゆみ)、『GRAND SLAM』(週刊ヤングジャンプ)、『学習まんが 日本の歴史』、『復讐の教科書』(マガジンポケット 原作/廣瀬俊)など多数の作品を世に出している。