1975年にオール阪神・巨人としてデビューし、上方漫才界の第一線で活躍し続けているオール巨人さん。芸歴47年、71歳を迎える現在の心境や自らの老い、介護に関する思いをうかがいました。
ずっと続けてるのはウチくらい。一回も解散していないのは誇り
身体の不調から感じる「老い」のはじまり
-1951年生まれ。今年で71歳になるオール巨人さんは、5~6年前から頸椎の不調に悩まされてきました。3度の手術を乗り越えながら、現在も身体のだるさや痺れを抱えての生活が続いています。
老いを感じるきっかけってまずは体の異変だと思います。
65歳まではまだまだ若いって感じていましたが、肩が思うように動かない、ゴルフに行きたいけどちょっと待てよ肩が痛いなとか。やりたいことがあってもその後にしんどくなるなど、誰もが内臓面も含めての不調から老いを感じてきます。
特に3回目の手術の時は痛みが酷くて地獄でした。でもなんとか回復したいと思って、4回目の手術も検討しましたが、今はいろんな薬を試しながら、その痛みや痺れと付き合っている段階です
-体調不良からくるモチベーションの低下。その気持ちの維持が難しいと巨人さんは言います。
舞台に出てる時でも肩痛いなと感じる時はあるんです。でもその時に、相方の阪神君とか昔から一緒に頑張っている仲間と話をしたり、笑ったりしている時は気持ちが紛れますね。
だから、介護を受けているような高齢者にとってもそういう機会ってすごく大事やと思うんですよ
一度も解散することなく続けてきた漫才への誇り
-1975年にオール阪神・巨人とデビューしてから47年。今なお舞台に立つなど、一線で漫才を続けられています。
デビュー当時の23~24歳の頃は、まさか自分が70歳まで漫才を続けているとは思っていませんでした。
当時、大先輩が漫才をしている姿を見て、喋りは上手いからラジオで聞いていたらわからないんですが、テレビの映像で見ると悲壮感が漂っていたんです。どう見ても病気やな、腰が曲がっているなって。今の僕を世間の皆さんがどう見てはるかはわかりません。
70歳にしてはまだ若いと思ってもらえている間はいいですが、いやいや巨人さん最近あかんでって思われるようになってきたら辞めたいなと思っていますね。
コンビとして46~47年続けていますから。一旦解散してまた戻っているコンビもいますけど、ずっと続けてるのはウチくらいちゃいますか?漫才ではトータルで僕らが一番長いんちゃうかな?
一回も解散していないのは誇りに思っています。
「生きがいを探せ」なんて簡単に言うたらいかん
いつまでも頼られる存在。それが高齢者の生きがいに
-高齢者に老後の不安についてのアンケートを実施してみると、どうやってやりがいや生きがいを見つけていけばいいのかという不安や悩みが多く寄せられています。
70歳を超えてもSNSをはじめ、若手芸人とのコラボなど精力的に活動を続ける巨人さんのやりがいや生きがいの見つけ方とは?
今年で71歳になるんですが、70歳って高齢者の入口ですから、若い人の気持ちと高齢者の気持ちの両方が理解できるんです。
60歳とか65歳とかで何言うてんねん、70歳なんてまだ若いやんって言われますけど、急にきますからね。ペットボトルの蓋なんかどんだけ落とすか(笑)。
今朝もポッと蓋を落としてしまったら、嫁はんに何落としてんのって指摘されましたけど、お前もあと1~2年でわかるわって返してます(笑)。
-歳を重ねることで、自身の行動のなかで物を落とす、本が捲れない、すぐ物を忘れる、覚えられないなど、今までなら普通にできていたことができなくなる事象が増えてきます。
自らの身に起こるそれらを通して老いを感じている人の気持ちは、実際になってみないと理解できないと巨人さんは言います。
今まで普通にできていたことがどんどんできなくなっていくんですから、本人に生きがいを探せって簡単に言うたらいかんと思うんです。
自分では探せません、それはやっぱり周りが見つけてあげることが大事。折り紙で珍しいのを折るでもいいし、歌が好きならそれでもいい。昔好きだったこととか、個人個人が違って当たり前なんですよ。
-さらに、高齢者にとって他人に求められることの効果についても。
僕も定期的にやっているSNSやブログですが、本当は辞めた方が楽なんです。でもやっていなかったら家で何してるんかな?って考えた時に、この言葉はいいな、人を傷つけない言い方はなどを考えながらね。
僕の発信を楽しみにしてくれている人もいますし、自分の勝手な思いですが、多少のボケ防止にもなってるんかなって。
高齢者って人に物をあげるの好きでしょ?この歳になっても頼られるって嬉しいんですよ。だから、「おばあちゃんこれお願い」など頼ることで、高齢者に目標を持たせてあげるって大切なことですよね。
坂田師匠を見ると「俺はもうええかな」って思う(笑)
その日その日の楽しいことを積み重ねていくのが秘訣
70歳の声を聞いてから引退を意識するようになりました。息子に、そろそろ辞めて沖縄に住んだらええんちゃう?って言われるんですけど、暑いの嫌やし、虫嫌いやし、嫁はんはついてこないなとか考える時はあります。
吉本の110周年の後はどうするか、自分たちの50周年もありますが、今はそこまでは考えなくてもいいんちゃうかな。歳を重ねてくるとなかなか先のことをポジティブに考えることが難しくなるじゃないですか。
だから、何年後のことではなくて、その日その日の楽しいことを積み重ねていくことが大切。いつまでも燃えてるのって西川きよしさんくらいちゃうの?きよし師匠を見るともうちょっと頑張った方がええんかなって思うし、坂田師匠を見るともうええかなって思うね(笑)。
生きるっていうことは周りの支えが大切になる
-70歳を超えてから少しずつ引退を意識してきたという巨人さん。その先にある〝死〟について考えることはあるのでしょうか。
友達や先輩方の葬式に行くと、そのうち行くからねと手を合わせています。自分が亡くなったら天国で会えるのかなと漠然と考えることはありますが、まだ間近に死を意識することはあまりないですね。
自宅の庭に雀が来るんですが、その中に体が弱いのか怪我をしているのか動きが不自由な雀がいて、いつもその周りに別の雀が寄ってきて餌を口移しであげているんです。やはり生きていくには、周りの支えってすごく大切なんだなと実感しました。
そういう意味でも、高齢者にとって〝笑い〟は大きな支えになると思うんです。笑うことが病気の予防にもつながるみたいですしね。
笑いの力で高齢者の皆さんが笑顔になってくれたら
一通の手紙から始まったオンラインコンサート
-〝笑い〟のある介護レクリエーションをオンラインで提供する「よしもとお笑い介護レク~オンライン~」が2021年からスタート。そのキックオフイベントとなる巨人さんのコンサートには、日本全国1730施設2万人の高齢者が参加しました。
ある高齢者の介護を担当されている方から一通の手紙をいただいたんです。そこには、おばあちゃんが巨人さんを大好きで、毎日巨人さんの歌を歌っている。うちの介護施設では全員がその歌を歌えるようになりましたって。
そのおばあちゃんに会いに行きたいなと思ったんですがコロナ禍では実現が難しくて、僕の歌で元気になってくれるならオンラインでやってみようというのがきっかけになりました。
〝笑い〟がもたらす力で生活にいつもと違った刺激を
-3ヵ所で始まったオンラインでのコンサートは10~15ヵ所と次第に増えていき、前述したキックオフイベントでは1,700ヵ所以上となりました。
コロナ禍ではみんなが集まるような機会も少なく、久々に集まって楽しめたなど多くの喜びの声をいただきました。僕の歌でよかったら、介護施設の自分の部屋でじっとしているよりも、広いところに集まって楽しんでもらえたらいいですね。
今後の計画として吉本110周年で全国をまわるので、コロナの状況次第にはなりますが、その時に近くの介護施設を訪れてリアルなコミュニケーションを取れる機会を持てたらと考えています。
高齢者の生活にいつもと違った刺激があればいいなと考えていて、それには〝笑い〟が一番いいと思うんです。
高齢者が少しでも笑顔で毎日を過ごせる。僕たちも〝笑い〟の力で少しでも貢献できたらと思います。
「よしもとお笑い介護レク~オンライン~」って!?
芸人を派遣する吉本興業、通信回線やシステムを提供するNTT東日本神奈川事業部など5社が連携。実証実験を重ね、全国の介護施設とオンラインでつなぐ仕組みを整備した。
レクリエーション介護士資格を取得した吉本興業所属のタレントを中心に提供する「お笑い」と「介護レク」を合わせたレクリエーションプログラム。ゲームや音楽、体操、ワークショップなど、認知症予防や健康維持、QOLの向上を目的に、介護施設などで実施中。コロナ禍でレクリエーションの機会が減ってしまった介護施設に向けて、2021年にオンライン版もスタート。
「よしもとお笑い介護レク~オンライン~」の詳細はこちらをご覧ください