認知症を発症すると物事のメリット・デメリットを判断する能力が損なわれてしまいます。判断能力が衰えた状態で行った行為は原則無効となるため、さまざまな契約行為や権利の行使などが単独ではできなくなってしまいます。
成年後見制度とは、後見人等が判断能力の衰えた人を「財産管理」と「身上監護(介護、医療などに関するサービスを受ける上で必要な契約の締結等)」の両面でサポートする制度です。成年後見制度は「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つに分けられます。今回は、法定後見制度の概要について、ご説明します。
法定後見制度とは?
法定後見制度は、本人の判断能力が衰えた状態となった後、家庭裁判所に申立を行い、後見人等を選任してもらう制度です。本人の判断能力の状態に応じ、「後見」「保佐」「補助」の類型がありますが、「後見」類型の利用が全体の約80%を占めています。
後見人の選任にかかる論点
「認知症の父の介護施設入居に必要なまとまった資金を本人の預金口座から引き出せない」「父の相続人の1人である母が認知症で、代理人を立てないと遺産分割協議ができない」といったトラブルが、多くの場合、後見人等選任申立のきっかけとなります。申立を行うことができる人は、本人のほか、配偶者、四親等以内の親族、市区町村長などに限られます。申立書に「成年後見人等候補者」を記載することができますが、本人の財産額が一定以上の額である場合などは、身近な親族を候補者として記載したにもかかわらず、弁護士等の専門職が後見人等に選任されるケースがあります。この場合、専門職後見人等に対する報酬(本人の財産額に応じ、月額2~6万円程度)が発生します。親族後見人等による本人の財産の使い込みなどの不正を防止することが、専門職後見人等選任の主な理由ですが、見知らぬ専門職が後見人等に選任されることに対する親族の反発は強く、制度の利用を阻害する要因となっています。このため、近年、最高裁は「後見人等には身近な親族を選任することが望ましい」との見解を示し、家庭裁判所に通知しています。
柔軟な財産管理には課題も
法定後見制度において、後見人等による財産管理の目的は、あくまでも「本人の財産を守ること」です。本人の居住用不動産の売却に際しては裁判所の許可が必要となるなど、柔軟な財産管理が難しい点に注意が必要です。
まとめ
法定後見制度は、判断能力が衰えた状態になった人を「財産管理」「身上監護」の両面からサポートする制度ですが、留意点もあります。成年後見制度について詳しく知りたい方は、シニアと家族の相談室まで、お気軽にお問い合わせください。