家族信託の信託財産を管理する口座について

認知症などで判断能力が不十分な状態になった場合の「財産凍結」の問題を解決する手段の1つとして、近年注目されている「家族信託」。元気なうちに財産を信頼できる家族に託し、託された家族が信託契約の内容に基づき、財産の管理(場合によっては処分)を行う仕組みで、賃貸不動産を所有されている皆さんを中心に活用されるケースが増えています。

家族信託においては、財産を託す人を「委託者」、託される人を「受託者」、託される財産を「信託財産」、信託財産から発生する利益を受け取る人を「受益者」といいますが、信託契約を締結したからといって、受託者が委託者名義の口座を直接管理できるわけではありません。また、受託者は信託財産に関して、受託者固有の財産とは切り離して管理する「分別管理義務」を負うことになります。このため、信託財産を管理するための専用口座の開設が、実務上必要になります。信託した賃貸不動産の家賃の受け取りや修繕費の支払いなども、この口座を通じて行います。

今回は、信託財産を管理するための口座について考えてみましょう。

目次

絶対に避けたい、受託者名義の既存の口座の活用

信託財産の分別管理義務については、法令上、その手法まで指定されているわけではなく、受託者の裁量に委ねられているといえますが、受託者が普段使っている受託者名義の口座を使って委託者の財産を管理する行為は、絶対に避けたいところです。

受託者個人が「信託契約に従い、委託者の財産をしっかり管理したい」という思いを強く持っていたとしても、同じ口座に受託者固有の財産と委託者から託された信託財産が混在する状態では、客観的に見て説得力がありません。「贈与ではないのか?」との疑義をかけられたり、「使い込み」を疑う親族との間でトラブルの火種となったりする懸念があります。また、同じ口座に受託者固有の財産と信託財産が混在した状態で、うっかり全て受託者固有の財産として確定申告を行ってしまい、後で修正申告が必要となった事例もあるそうです。

セオリーは「信託口口座」の開設

家族信託を設定する場合、金融機関で「委託者〇〇受託者〇〇信託口」といった名義の

「信託口口座」を開設し、この口座を通じて信託財産を管理するのがセオリーです。「信託口口座」は、金融機関において受託者固有の口座とは異なる顧客管理番号(CIF番号)で管理されます。このため、受託者が借金を返済できなくなったり、破産したりしたような場合でも、信託財産は差押えを受けることなく保護されます。また、仮に受託者が委託者より先に亡くなってしまっても、後継受託者に口座を引き継ぐことが可能です。

ただ、「信託口口座」とうたっていても、顧客管理番号(CIF番号)が受託者個人に紐付けられており、「屋号付き口座」のような形での開設となってしまう金融機関も多いようです。この場合、後述する「信託専用口座」と同じ性質の口座となってしまいますので、口座開設を申し込む際に、よく確認してみると良いでしょう。

 本当の意味での「信託口口座」の開設に円滑に対応できる金融機関は極めて少なく(特に地方では)、開設に応じてくれる場合でも、信託契約を事前に提出し、その内容について金融機関の法務チェックを受けるなど、開設に時間がかかる場合があります。また、「信託口口座」は、キャッシュカードやネットバンキングが使えないケースがありますので、注意が必要です。

次善の策としての「信託専用口座」の開設

「信託口口座」の開設が難しい場合、次善の策として、信託財産の管理だけを目的とした受託者名義の口座を新しく開設し(「信託専用口座」と呼ぶことがあります)、この口座を通じて信託財産を管理することも可能です。信託契約の中に、この口座の口座情報を明記し、その位置づけを明確化しておくと良いと思います。

この場合、口座開設自体のハードルは低いものの、あくまでも受託者個人名義の口座ですので、受託者が借金を返済できなくなったり、破産したりしたような場合は、差押えを受けることもあります。また、受託者が亡くなった場合には「凍結」してしまいますので、あらかじめ認識しておく必要があります。

まとめ

家族信託は、資産凍結リスクに備える有効な手段ですが、信託契約の作成など、家族信託の組成には専門的な知識・ノウハウが必要です。誰に相談すれば良いかわからないという方は、シニアと家族の相談室までお気軽にお問い合わせください。信頼できる専門家をご紹介可能です。

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