認知症発症等に伴う「資産凍結リスク」に備えるための切り札として注目される「家族信託」。今回は、成年後見制度と比較しながら、その仕組みについてご説明したいと思います。
認知症患者の増加と資産凍結リスク
先日発表された厚生労働省調査研究班の推計によれば、認知症の患者数は、2030年に523万人に、団塊ジュニア世代が65歳以上になる2040年には584万人にのぼるとされています。介護人材の不足、介護と仕事の両立に悩む人の増加などが懸念されていますが、認知症発症に伴う資産凍結リスクも大きな問題です。認知症などで判断能力が不十分な状態になると、自分の財産の管理や処分を単独で行うことができなくなってしまいます。「銀行口座から預金を引き出せなくなる」「不動産を売却できなくなる」といった話を聞いたことがある人もいらっしゃると思います。
成年後見制度と財産管理の課題
判断能力が不十分となった人を支援する制度として、「成年後見制度」がありますが、本人の判断能力が衰えてしまった後、家庭裁判所に申し立てを行って後見人を選任してもらう「法定後見制度」の場合、全財産が裁判所の監督下に置かれるため、柔軟で機動的な財産管理が難しいとされています。また、法定後見制度では、家族ではなく、弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選ばれることもありますが、この場合、専門家に支払う報酬が生涯にわたって発生することになります。
成年後見制度では難しい柔軟で機動的な財産管理を可能にする対策手法として、注目を集めているのが、家族信託です。家族信託を活用する場合、まず、委託者と受託者が「信託契約」を締結します。主に親子間で締結されますが、親御さんの認知症が進み、判断能力が不十分な状態になってしまった後では、契約を締結することはできませんので、注意が必要です。一般的に利用されている家族信託は、親を「委託者兼受益者」、子を「受託者」とするタイプです。親(委託者)の判断能力があるうちに財産(信託財産)を子(受託者)に託し、その管理を委ねます。預金のほか、自宅、賃貸不動産など、さまざまな財産を信託財産とすることが可能です。子は、自分のためではなく、親(受益者)のために信託財産を管理し、賃貸不動産から得られる家賃収入など、信託財産から得られる利益は、従来通り親に帰属します。このため、生前贈与とは異なり、子に贈与税がかかることはありません。
まとめ
成年後見制度と比べ、柔軟な財産管理が可能な家族信託ですが、信託契約の作成等、家族信託の組成には専門的な知識・ノウハウが必要です。誰に相談すれば良いかわからないという方は、シニアと家族の相談室までお気軽にお問い合わせください。信頼できる専門家をご紹介可能です。