自筆証書遺言が見つかった場合の対応と留意点

遺言者の死後に自筆証書遺言が見つかった場合、速やかに家庭裁判所での「検認」を行う必要があります。検認の趣旨は、遺言書の存在を全ての相続人・受遺者に知らしめ、遺言書が偽造・変造されるリスクを防ぐことであり、遺言書の内容が有効であるかどうかを判断する手続きではありません。この辺りの理解が不十分であるために、相続トラブルをますます増幅させてしまっているような事例もあります。Aさんの事例を通して考えてみたいと思います。


目次

検認とは?

自筆証書遺言が見つかった場合、できるだけ速やかに遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に検認の申立てを行う必要があります。

検認の申立てが受理されると、家庭裁判所から、全ての相続人・受遺者(以下、関係相続人等といいます)宛に遺言書の存在と検認手続きの期日が通知されます。当日は、関係相続人等が家庭裁判所に集まり(出席できない関係相続人等がいても、検認は行われます。欠席した関係相続人等には、後日、検認の終了通知が郵送されます)、その面前で遺言書を開封し、その状態や日付、署名など遺言書の内容を明確にします。検認が終了すると、検認調書が作成されます(相続手続きに使用する場合、別途申請して検認証明書を取得します)。

検認を経ていない自筆証書遺言は、不動産の相続登記や預金や株式の名義変更手続きにおいて使用することができませんので、こうした相続手続きに先立ち、検認を行う必要があります。

なお、令和2年7月10日にスタートした法務局における自筆証書遺言書保管制度を利用した場合、検認は不要となります。

検認の趣旨は、遺言書の存在を全ての相続人・受遺者に知らしめ、遺言書が偽造・変造されるリスクを防ぐことであり、遺言書の内容が有効であるかどうかを判断する手続きではありません。この辺りの理解が不十分であるために、相続トラブルをますます増幅させてしまっているような事例もあります。

Aさんの事例

 「父が亡くなり、相続人は私と妹の2名です。妹は父と仲が良く、父の生前に、弁護士のアドバイスをもらいながら、自筆証書遺言を書いてもらったそうです。内容については教えてもらえませんが、父と私は折り合いが悪かったので、間違いなく私に不利な内容で書かれているはずです。下手をすると、私の相続分はゼロと書かれているかも知れません。『封緘された遺言書の原本は私が持っている。内容については、検認の場でわかるから。手続きに必要な戸籍謄本の取得とか、協力よろしくね』と妹に言われ、悔しくて悔しくて。検認が終わると、遺言書の内容を認めてしまったことになるんですよね?何とか検認を妨害する手段はありませんか?」

 検認は、遺言書の内容が有効であるかどうかを判断する手続きではありません。検認は、遺言書の内容を明らかにするための「通過儀礼」と言え、検認の結果、明らかになった遺言書の内容が自分の遺留分を侵害する内容だった場合、遺言者が認知症などで既に判断能力を失っていたと思われる時期の日付で書かれていて、有効性が疑われる場合などは、法的に争うことも可能です。Aさんが考えるように、検認の手続きを遅らせたり、妨害したりすることは全くのナンセンスなのです。

 Aさんの事例のような入り口段階での無用なつまずきが存在することを考えると、現在、自宅等に自筆証書遺言を保管されている方は、法務局への保管申請を検討されることをお勧めします。もちろん、公正証書遺言の場合、検認が不要であることは、言うまでもありません。

ちなみに、検認の場合、家庭裁判所からの通知により、関係相続人等は遺言書の存在を知ることになります。検認が不要となる法務局における自筆証書遺言書保管制度においては、関係相続人等は、どのような手段で遺言書の存在を知ることができるのでしょうか?

法務局における自筆証書遺言書保管制度においては、「関係遺言書保管通知」と「死亡時の通知」の2種類の通知のしくみを用意しています。

「関係遺言書保管通知」とは、遺言者の死亡後に関係相続人等の誰かが、保管されている遺言書を閲覧したり、遺言書情報証明書の交付を受けたりした場合に、法務局の遺言書保管官が、その他の関係相続人等に対して,遺言書が保管されている旨を通知するというものです。ただし、誰も閲覧等を行わなかった場合、この通知は実施されません。

そこで、「関係遺言書保管通知」を補うものとして、法務局の遺言書保管官が遺言者の死亡の事実を確認した場合には、あらかじめ遺言者が指定した者に対して,遺言書が保管されている旨を通知する「死亡時の通知」が用意されています。  


まとめ

自筆証書遺言が見つかった場合、家庭裁判所での検認が必要です。検認の手間や検認にまつわるトラブルを未然に防ぐためには、法務局の自筆証書遺言書保管制度や公正証書遺言を活用されることをお勧めします。

遺言や相続についてのお悩みは、「シニアと家族の相談室」にお気軽にご相談ください。

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