先日、Aさん(80代女性)から、こんなご相談をいただきました。
「2か月前に主人が亡くなりました。四十九日の法要も終わり、気持ちの整理もついたので、相続手続きに着手しようかと思いまして……。私はこの通り高齢ですし、2人の娘はそれぞれ仕事が忙しいようですので、専門家の方にお願いしようかと。相続税もかかると思います」
今回は、Aさんのご相談をもとに、少し複雑な家族構成での遺産分割についてご説明します。
Aさんの相続財産の内訳
亡くなったご主人の財産は、預貯金や株式、投資信託などの金融資産のほか、次のような内容です。相続人はAさんと2人の娘さん(Bさん、Cさん)の3人です。
①賃貸アパートⅠ
②賃貸アパートⅡ
③地方都市の土地(駐車場として活用中)
④リゾート地の別荘
「なかなか目が行き届かない物件ですので、この相続を機に、③地方都市の土地と④リゾート地の別荘は売却しようと思っています。
ただ、賃貸アパート①と②は、最終的にBとCに遺してやりたいと思います。2つとも立地が良く、築浅で空室も少ない資産価値の高い物件なんですよ。
家賃収入は、両方同じくらいなので、平等でいいと思います。ただ、今回は、いったん私が主人の全財産を相続するのがいいんですよね?相続税が抑えられる(配偶者の税額軽減)と聞きました」とAさん。
「今回の相続(一次相続)の相続税額を小さくすることだけを念頭に置くと、確かにそうかも知れませんが、Aさんが亡くなった場合の相続(二次相続)も視野に入れ、税理士も交えて慎重にご検討された方が良いと思いますよ。
二次相続では、『配偶者の税額軽減』は使えませんし、相続人の人数が減るため、一次相続と比べて基礎控除額も小さくなります。二次相続までトータルで考えると、かえって税負担が大きくなるかも知れませんよ」とお話しすると、「私の相続ねえ・・・。実は、相続人が増えるんです。全部で4人になります」とAさんは肩をすくめながら、苦笑しました。
前夫の子どもたちへの配慮と遺産分割の希望
Aさんは離婚歴があり、前のご主人との間に2人の息子さん(Dさん、Eさん)がいるとのこと。前のご主人に引き取られた2人は既に60代。離婚後、直接会う機会は少なかったそうですが、折に触れ、電話や手紙のやり取りを続けてきたそうです。
「DとEには、本当に不憫な思いをさせました。だから、私の相続の際には、DとEにも何らかのものを相続させてやりたいと思います。今回亡くなった主人の家系が大切に守ってきた不動産(特に①、②の賃貸アパート)は、BとCが継承すべきだと思いますが、それ以外の私固有の財産は、4人で平等に分けてもらえたらと思います」とAさん。
そうなると、二次相続の際の相続税負担の観点からだけではなく、スムーズな遺産分割という観点からも、今回の相続(一次相続)で、①、②の賃貸アパートなど、前のご主人の家系由来の財産をBさん、Cさんに相続してもらっておいた方が良いと考えられます。
現在、Aさんには、相続に詳しい税理士、司法書士をご紹介し、二次相続まで見据えた遺産分割方針について、しっかりとご検討いただいています。それが終わった段階で、Aさんは、自身の相続の際に、互いに面識のないBさん、CさんとDさん、Eさんの異父兄妹が、遺産分割についての込み入った話をしなくても済むよう、公正証書遺言を作成しておきたいとのことです。