親の再婚が相続に与える影響とは?事例で学ぶ円満な相続の秘訣

離婚や配偶者との死別を経験した人が、60代、70代になってから再婚するケースが増えています。

子の立場から親の再婚をとらえた場合、「人生の新しい門出を祝福したい」「将来の介護の負担が軽減されそう」といった肯定的な感想も多い中、「相続の際の遺産取得分が大きく減ってしまう」と反対する人も一定数いるようです。

今回は、親の再婚と相続の関係について、事例を通じて考えてみたいと思います。

目次

法律婚の場合、相続権を持つ配偶者が出現

数年前に妻を亡くしたAさん(70代男性)は、今般、Bさん(60代女性)と再婚しました(入籍を行う法律婚)。Aさんには、亡妻との間に一人息子のCさん(40代)がいます。Aさんの財産は、自宅(約2,000万円)と預金約2,000万円です。

再婚前のAさんの相続人はCさんのみ。Aさんが亡くなったら、その全財産をCさん1名が相続するはずでした。しかし、再婚により、Bさんは相続権を持つAさんの配偶者となるため、Aさんの相続人はBさん、Cさんの2名となります(法定相続分は、それぞれ1/2ずつ)。遺言がない場合、Aさんの死後、Bさん、Cさんの2名で遺産分割協議を行うことになります。BさんとCさんが良好な関係でない場合、話し合いの席に着くこと自体、お互いにとって気の重い話になるでしょう。

遺言による対策とその限界

対策の1つとして、遺言の作成が考えられます。

Aさんは再婚後、Bさんと自宅で暮らしており、Cさんはかなり前に実家を出て、自分で購入したマンションで妻子とともに暮らしています。

Aさんが、「自宅は妻Bに、預金は長男Cに相続させる」という遺言を作成した場合、遺産分割協議は不要となります。BさんはAさんの死後も自宅に住み続けることができ、Cさんも全財産の約1/2にあたる預金を相続することができます。

しかし、Bさんには、前夫との間に一人娘のDさんがいます。

遺言により自宅を相続したBさんが亡くなると、自宅はBさんの唯一の相続人であるDさんに相続されます。このことについては、AさんもCさんも釈然としません。

かといって、仮にAさんが、「自宅は妻Bに相続させる。妻Bの死後は、長男Cに相続させる」という内容の遺言書を作成しても無効です。なぜなら、Bさんが財産を相続したら、その財産はBさんのもの。もはやAさんに口を出す権利はないからです。

家族信託の活用

上記の問題は、遺言に加え、家族信託を活用することで、解決することが可能です。「受益者連続信託」と呼ばれるもので、特定の財産をあらかじめ決めた人に複数世代にわたって承継することができます。これにより、Aさんの死後、自宅をBさんに承継し、Bさんが亡くなったらCさんに承継するということを、Aさんの生前に決めることが可能です。

具体的には、Aさんを委託者兼受益者、Cさんを受託者、自宅を信託財産として、AさんとCさんの間で信託契約を締結します。このとき、Aさんが亡くなったらBさんが受益権(信託財産から利益を受ける権利)を引き継ぐ旨、信託契約に定めておきます。

信託財産から得られる利益は、原則、全て受益者のものとなるため、Aさんの死後、自宅は実質的にBさんのものとなります。更に「妻Bが亡くなったら、信託契約は終了し、信託財産は長男Cが取得する」と定めておけば、Bさんの死後、最終的に自宅をCさんの財産とすることができるのです。

なお、家族信託の組成にあたっては、専門的なノウハウが必要となります。実際に活用を検討したい場合、まずは家族信託に詳しい司法書士等に相談されることをおすすめします

事実婚を選択する場合

AさんとBさんが入籍せず、事実婚を選択する場合、事情は異なってきます。

「事実婚のパートナー」であるBさんは、Aさんの配偶者ではないため、相続権はありません。Aさんが亡くなった場合の相続人は、引き続きCさん1名のみということになります。

しかし、今後の人生をともに歩み、心身ともに支えてくれるであろうBさんに何も遺せないとなると、Aさんとしても本意ではないでしょう。遺言による財産の一部の遺贈、生前贈与など、いくつかの対策が考えられますが、Aさん、Cさんの親子間で腹を割って話し合い、Bさんの経済的コンディションも考慮しながら、より良い解決策を見出していくと良いと思います。

なお、保険会社は、死亡保険金の受取人を「配偶者と2親等以内の親族」に限定していることが多く、Aさんが事実婚のパートナーであるBさんを保険金受取人とする生命保険に加入するのは、一般的に難しいと思われます。

ただし、例外を認める条件を設けている保険会社もありますので、事前に個別に確認してみると良いでしょう。もし、生命保険の活用が可能であれば、対策の選択肢が1つ増えることになります。

まとめ

シニアの再婚が増えていますが、籍を入れる法律婚の場合と籍を入れない事実婚の場合とでは、相続に与える影響が異なります。また、二次相続まで視野に入れた対策を考えなければならない場合もありますので、注意が必要です。

「シニアと家族の相談室」では遺言書だけでなく、家族信託や生命保険など、お客様の状況に合わせて、最適な解決方法をご提案可能です。必要に応じて専門家のご紹介も可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

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