相続人同士の仲が悪いわけではなく、財産の内容が分割しづらいわけでもないのに、円滑な遺産分割協議が難しいケースがあります。今回は、円滑な遺産分割協議が難しいケースと、トラブルを回避するための対策について考えてみたいと思います。
円滑な遺産分割協議が難しいケースとは?
遺産分割協議は相続人全員で行う必要があります。しかし、以下のようなケースでは、相続人全員による遺産分割協議が難しく、相続手続きが滞ってしまうリスクがあります。
1. 相続人の数が多く、互いに疎遠である場合
「配偶者や子どもがおらず、両親もかなり前に他界している」という方の相続が発生すると、兄弟姉妹が相続人となります。その兄弟姉妹が亡くなっている場合、その子どもたち、つまり甥や姪が代襲相続人となります。このような相続の場合、相続人の数が多く、かつ、互いに疎遠であるという傾向があります。「連絡先がわからない相続人が何人かいて、困っている」といったご相談も少なくありません。
2. 行方不明の相続人がいる場合
相続人の中に行方不明の人がいる場合、その人を除外して遺産分割協議を行うことはできません。行方不明の相続人が生存している可能性が高く、行方不明になってから7年未満である場合、家庭裁判所に「不在者財産管理人」を申立て、不在者財産管理人が行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議に参加する許可をもらいます。この一連の手続きには、数カ月の時間がかかることが一般的です。
さらに、不在者の生死が7年以上不明である場合には、家庭裁判所に「失踪宣告」を申立てることができます。失踪宣告がなされるまでには約1年かかり、失踪宣告を受けた不在者は、法律上、「死亡したもの」とみなされ、相続人から除外されることになります。失踪宣言を受けた不在者に子どもがいる場合は、代襲相続人として協議に参加することになります。
3. 認知症の相続人がいる場合
認知症等により判断能力が不十分な状態となった人の意思表示は、法的には無効とされます。しかし、遺産分割協議は相続人全員の合意を必要とするため、判断能力が不十分な状態の相続人を除外して行うことはできず、代理人を選任する必要があります。具体的には、家庭裁判所に成年後見人選任の申立てを行うのですが、選任の手続きにかなりの時間を要します。
対策手法としての遺言書の作成
遺言書は、自身の財産について、「誰に、何を、どれくらい相続させるか?(もしくは遺贈するか?)という、死後に効力を発する意思表示です。被相続人の遺言書が残されている場合、遺産分割は、原則、遺言書の内容に従って行われるため、遺産分割協議を行う必要がありません。円滑な遺産分割協議が難しいと考えられる場合は、元気なうちに遺言書を作成し、備えておくことがおすすめです。
まとめ
「相続人の数が多く、互いに疎遠である場合」「行方不明の相続人がいる場合」「認知症の相続人がいる場合」などは、相続人全員による遺産分割協議が難しく、相続手続きが滞ってしまうリスクがあります。このようなトラブルを回避するための対策手法としては、遺言書の作成が有効です。被相続人の遺言書が残されている場合、遺産分割は、原則、遺言書の内容に従って行われるため、遺産分割協議を行う必要がありません。
遺言書作成については、「シニアと家族の相談室」までお気軽にご相談ください。必要に応じて、公正証書遺言の作成をサポートしてくれる専門家のご紹介も可能です。