再婚家庭における相続問題は、意外と見落としがちなポイントです。親子同然に暮らしていても、そのままでは連れ子に相続権はありません。新しい家族として良い関係を築いてきたのに、もしもの時には自分の財産が疎遠だった兄弟姉妹や甥姪にわたってしまい、長年一緒に暮らしてきた連れ子には何も遺してあげられないということも起り得ます。
大切な家族に、確実に財産を引き継ぐために有効な養子縁組と遺言書の活用方法について、事例をもとにご説明します。
実の親子のように暮らしてきた再婚相手の連れ子には相続権がない?
先日、ご相談に来られたAさん(70代男性)の話です。Aさんは43歳の時、前妻と離婚しました。前妻との間に子供はいませんでした。その数年後、Bさんと再婚したのですが、Bさんも離婚経験者で、前夫との間には当時高校1年生の娘が1人いました。
娘のCさんは難しい年頃であったにもかかわらず、すぐに打ち解けてくれ、Aさんのことを実の父親であるかのように接してくれたそうです。
Aさんは再婚の際、Cさんを養子にするかどうか、検討したそうです。
しかし、Cさんは姓が変わることに抵抗感を感じていたとのこと。「裁判所の許可を得れば、姓を変えずに済む方法もあるようでしたが、手続きが複雑で許可のハードルも高いと聞きました。そこで、『当面のところ養子縁組はせず、またいずれ』という話になったのです」とAさん。
その後、Cさんの大学進学のタイミングなど、養子縁組の話が何度か持ち上がったそうですが、その都度「またの機会に」と先送りとなり、Cさんが結婚を機に家を出た後は、養子縁組の話が取りざたされることはなくなっていたそうです。
再婚から約30年経った昨年、Bさんが亡くなってしまいました。
Bさんの相続人は夫のAさんと娘のCさんの2人です。Bさんの遺産の相続についてCさんと2人で話し合う中で、Aさんは「私の相続が発生した場合、Cは私の遺産を相続できないのでは?」と不安になったそうです。
「女性の方が長生きだから、Bより私の方が先に死ぬだろう。私の遺産はBに相続され、Bの死後、Cに相続されるはずだと勝手に思い込んでいたのですが、Bに先立たれた今、Cと養子縁組をしていないことが、今さらながらまずいことに思えてきたのです」
養子縁組、遺言書作成という2つの選択肢
AさんとCさんは、実の親子のように長年暮らしてきましたが、Aさんの相続が発生した場合、再婚相手の連れ子であるCさんに相続権はなく、Aさんの遺産は、Aさんの5歳年上のお兄さん(お兄さんがAさんより先に亡くなった場合は、その代襲相続人となる甥2人)に相続されます。
お兄さんと甥たちは、Aさんの故郷の山形で暮らしていますが、最近はすっかり疎遠になっているそうです。
Aさんは、お兄さんや甥たちにではなく、実の親子のように暮らしてきたCさんに遺産を相続してもらいたいとのこと。
そこで、①「Cさんとの養子縁組」、②「Cさんに全財産を遺贈する旨の遺言書の作成」という2つの選択肢をご提案しました。
ちなみに、遺言書の作成の場合、兄弟姉妹やその代襲相続人には遺留分(一定範囲の法定相続人に認められている最低限の遺産取得分)が認められていませんので、遺留分の侵害が問題になることはありません。
このような提案をしたところ、「養子縁組の場合、Cの姓を私の姓に変える必要はあるのですか?」とAさんからご質問がありました。
CさんはBさんの前夫の姓を名乗っていましたが、結婚後は、夫の姓を名乗っているということでしたので、「『養子は養親の氏を称するが、婚姻によって氏を改めた者については、この限りでない』という民法の規定があります」とご説明しました。
Cさんは結婚により姓が変わっていますので、養子縁組後もCさんの姓はCさんのご主人の姓のままで良く、Cさんのご主人やお子さんたちに影響を及ぼさすことはありません。
このようにおこたえしたところ、AさんはCさんと相談の上、養子縁組を選択することにし、早速手続きを済ませました。
こうしてCさんは法的にAさんの唯一の相続人ということになり、Aさんの相続の際には、遺産を全て単独で相続できることになりました。
相続税対策を目的に養子縁組を考える場合の留意点
Aさんのケースとは趣旨が異なりますが、法定相続人の数が増えると相続税の基礎控除額や生命保険金・死亡退職金の非課税枠が大きくなることから、相続税対策を目的とした養子縁組を考える人もいます。
この場合、いくつか留意点があります。
まず、養子縁組により、いくらでも法定相続人の数を増やせるわけではありません。
相続税法上、法定相続人に含めることができる養子の人数については、「実子がいない場合2人まで。実子がいる場合1人まで」と制限が設けられています(ただし、特別養子縁組による養子、養子にした配偶者の連れ子、代襲相続で相続人になった養子は、実子と見なされ、人数制限の対象外となります)。
また、孫と養子縁組をする場合、親から子、子から孫という2回分の相続に対する課税を、1回分免れることになります。
このため、孫(子の代襲相続人である場合を除く)と養子縁組をする場合は、相続税額の2割加算の対象になりますので、注意が必要です。
まとめ
再婚家庭では、親子同然の関係であっても、そのままでは連れ子には相続権がありません。遺産を確実に引き継いでもらいたい場合には、早めに対策を講じることが重要です。
再婚家庭での相続について不安や疑問がある場合は、専門家に相談することをおすすめします。「シニアと家族の相談室」では、相続の専門家のご紹介もできますので、ぜひお気軽にご相談ください。