【セミナー講師インタビュー】老後はお金のことと、社会からの孤立が問題

シニアライフプラン研究所代表の山浦芳裕さん

シニアライフプラン研究所代表の山浦芳裕さんは、これまで大手生命保険会社の支社長として、長年にわたってさまざまな相談を受けてきました。そんな山浦さんに、定年退職後に多くの人が直面する問題についてお話を伺いました。

目次

お金のこと以上に危惧しているのは社会的な孤立

-将来のことを考えると、お金のことが心配という方が大勢いらっしゃると思いますが、対策はあるのでしょうか?

老後のお金について、多くの人が興味を持たれていることは「どういう運用だったら大丈夫なんだろう?」ということです。NISAが良いか?投資信託か?あるいは不動産投資?といったことです。

資産運用については、ネットでのサービスを利用すると、ポイントがつくといったメリットもありますが、人を介しての運用にも良さがあります。

良き相談者、担当者と付き合うことによって得られるメリットは、とても大事なことと言えます。これから20年、30年経って80歳、90歳になった時、経緯を把握している担当者がいれば、とても安心できるのではないでしょうか。

多くの方は、調子が悪くなってから「どこかに信頼できる人はいないかな」と探し始めているようですが、元気な時、判断能力がある60代のうちに、将来を見据えて、長く付き合える信頼のおける担当者を探してみてはいかがでしょうか。

-資産の運用を通じて、将来頼れる人を探しておくということですね。

お金と同じくらい心配なことは、老後の社会的な孤立だと思います。

定年退職になる年齢は、建前では65歳まで雇用延長となっていますが、こうした年代の方から「年金を早く受け取りたい」という相談が、多くあります。

職場では65歳まで働けるけれど、「60歳になった途端、待遇が悪くなって……」と皆さん、言われるのです。

-60歳を過ぎるとどうなるんでしょうか?

自分より若い上司がいて、仕事の量は今までと変わらず、そして給料はぐんと落ちる……。「この後5年間、耐えなきゃいけないですかね?」という相談なんです。

多くの方が、65歳までは給料が6割から7割にダウンとなっても我慢して受け入れるけれど、65歳を過ぎると「もう仕事を辞めたい」となります。

そんな話を聞くと、「65歳で仕事を辞めると、その後の何十年も何もしない時間が残っていることになるんですが、どうですか?」と話をしますが、それでも60歳の時に職場での待遇が悪くなったことを思い出すと、「65歳になると、たとえ働きたくとも働く場所はないだろう」とあきらめてしまいます。

だからこそ50代のうちに、60歳とか65歳になった時にどうすれば働き続けることができるのか?ということを真剣に考えることが大事かなと思います。

資格を取るのか、人脈を作るのか、起業するのか。お金の準備も大事ですが、いろいろな方のお話を聞いていると70歳、できれば70歳以降も働けることが大切かと思います。

幸せとは、家庭に居場所があって社会ともつながっていること

-いくつになっても働き続ける、ということが大事なんですね?

なぜ働き続けるべきなのかというと、収入のこともありますが、働いていると社会とつながりが生まれ、社会から孤立しないということがあります。

「社会とつながってる」っていうことが、生きる上でどれだけモチベーションにつながるか?ということです。

働かなくなり、夫婦仲が悪くなるケースもあります。

65歳になって、家のローンも終わっていて、もう仕事をしなくても年金で生活していける。退職金を取り崩していけば、ある程度の余裕がある、世間一般から見れば、とてもうらやましいケースです。

けれども、家庭の内側を見ると、夫婦の仲が悪い。

私の知ってるケースでは、完全な家庭内別居ですね。ご夫婦で一緒に暮らしていても、ご主人と奥さんは1日に1回会うか会わないかということが、現実としてあります。

-そういうケースは多いんですか?

ご相談いただく中ではよく聞きます。こんな状態であと何十年も家の中で一緒にいたらどうなってしまうんだろう?

奥様も、例え年金の半分をもらえたとしても、ご主人と別れて1人になると生活は苦しい。高齢で住むところの心配もしなければなりません。夫婦仲は悪いけれど別れられない。嫌でも一緒にいなきゃいけない。これは家庭内の孤立といえます。

-他人事とは思えません……

もう一つ、こんな例もあります。

その方は経営者だったのですが、65歳のときに会社を整理しました。その時、家を売って負債もすべて綺麗にした。今は5万円くらいの家賃のアパートに移ったけれど、ずっと社長だったので年金が少ないんです。10万円ちょっととおっしゃってました。

わずかながらの貯金を切り崩しながら生活していますが、このアパートを借りるのにも大変だったと。「70歳の1人住まいの男には、誰もアパートを貸してくれない」って言うんですよ。

やっとのことで部屋を借りて、年金からアパート代、電気代を引いて、残りは食費。

独身で、奥さんもお子さんもいない。両親は既に亡くなっていて、兄弟は疎遠。

「この前ちょっと心臓が痛かったけど、もしパタッと死んだら、エアコンとか家具は誰が捨てるんだろう」って。このまま死んだらどうなるんだってことを考えてしまう。

「毎日、恐怖との戦いだ」っておっしゃってました。

「でも、しょうがないな。何の準備もしてこなかったし」と。独りきりで2ヵ月に1度出る年金を頼りに、生きているという人もいらっしゃいます。

-それもつらいですね

65歳以降、夫婦2人で暮らしているけれど家庭の中での孤立。社会から関わりがほぼない中での孤立。お金とか年金とかっていう問題とは別のつらさです。

もちろん、お金の問題もありますが、精神的な部分の問題は、あまり表面に現れてはいないように思います。

この先の人生に明るい兆しが見えなかった時、人はどういうふうに眠りにつくんだろうと思うんです。

-反対に、65歳以降の人生がすごいうまくいってる方というのは、どういう方なのでしょう?

夫婦仲が良い方もたくさんいらっしゃいますが、やっぱり幸せそうですね。

年金のこと、お金のこと、もちろん問題がないわけではありませんが、バラバラじゃない。1馬力ではなくて2馬力なんです。

私の知っているご夫婦は2ヵ月に一度、金沢とか京都とかに旅行に行ってます。奥さんが美味しいお店をネットで見つけて予約を取って、それで「2人で行ってきたよ」。きっと行き帰りの新幹線の中で、いろいろなお話をされると思います。

元々、奥様と2人で飲食店を切り盛りしていた方で、良いときも悪いときもずっと一緒だった。なので、ご主人は奥さんのことを「戦友」っていうんですよ。「社会に出てから一緒に戦ってきて。今を迎えられたのもうちの女房のおかげなんだよ」って。

また、ご病気をされて、人工透析をずっとされてる方もいらっしゃるんですが、そこも奥様がすごく献身的にご主人を看病して、食事にも気を使ったり。

「この前また倒れて、女房に救急車呼んでもらって病院まで連れて来てもらったよ。何から何までやってもらってんだよな」なんてことをおっしゃっている。病気だから不幸だという側面もありますが、病気になって夫婦の絆は深まった。

ご主人と奥様のコミュニケーションが取れているという姿は、良いですね。総じて家庭の中に居場所があって、社会からも孤立していないっていうことが、最も幸せなことかと思います。

シニアライフプランの中で特に大切なのは、コミュニケーション

-どうすればそんな幸せな老後を迎えることができるのでしょう?

いろいろな制度も整っていますし、お金の回りの問題はある程度、何とか解決できると思っています。でも、家族との問題はものすごく努力しないと。

65歳からずっと同じ空間にいながら、お互いに孤立して生きていくのはきついですね。

もし解決方法があるとしたら、どういうコミュニケーションをとるか、ということかもしれません。

少しずつ、少しずつ歩み寄っていく10年と、何にもやらない10年だと、将来ずいぶん違うような気がします。

人には相手を認める認知フィルターというのがあります。

五感から入る情報、目とか耳とか鼻とか口とかから入る情報が認知フィルターを通過して、相手を認知するんですが、ほとんどの人はこのフィルターの幅が狭い。非常に狭い視野で相手を見ているんです。

それが、少しずつでも幅を広げていけると、「この人にはこんなとこもあるんだね」って理解できるようになる。認知するフィルターが狭いと喧嘩になるけれど、広いと受け止められるようになる。

相手を変えるのではなくて、自分の認知フィルターを変えるトレーニングをするんです。

-孤立を防ぐためのトレーニングですね

私は以前、自分の父親を見ていて、感じたことがあります。

父は大手企業で勤め上げて、それなりの地位に上って、家も建てて、財産も蓄えてきました。けれど、85歳の時に糖尿病で右足の親指を切断しました。それまでずっと元気だったのですが、そこから車いす生活になり、介護施設に入りました。

私が介護施設に見舞いに行くと、必ずテレビから少し離れたところにぽつんと1人でいるんですね。

あれは象徴的でした。皆テレビを観て笑ってるんですよ。でも父は1人で、離れて座ってる。

行くと喜んで話をするんです。そして必ず「帰りたい」といって帰ろうとする。

ひと月に一度くらい外出許可をもらって、お寿司がとにかく好きだったのでお寿司屋さんに行くんですよね。

ある時、父と母と、車でお寿司屋さんに向かっていると、母が「忘れ物をした」と言って、家に寄ったんですね。

家の前で、母親が忘れ物を取りに車を降りて、私は運転席にいて、後ろに父親がいる。

バックミラーで見えるんですけど、父がずっと家を見てるんです。

「もうここには帰ってこれないんだ」っていう父の目。

介護の問題にしても、「1割負担ですみますよ」「足りない分は年金を投入すれば大丈夫ですよ」とか、人によっては「家を売れば大丈夫でしょう」というような、そういう楽観的な意見もありますが、それは問題にきちんと向き合ってないから言えることではないかと思うんです。

周りに人がいても、誰とも話せない世界にずっといる。家には帰れない。そんな毎日がずっと繰り返されたら、どうでしょう?

そのようにイメージすると、老後の問題というのはお金の問題だけでなくて、やはりコミュニケーションなのかなと思います。

私の父はそれができない人だったから、1人ぼっちになってしまった。

シニアライフプランの中で特に大切なのは、コミュニケーションなのかもしれません。

-ありがとうございました

シニアライフプラン研究所 代表 山浦芳裕
大手コーヒー会社勤務を経てソニー生命保険株式会社に入社、支社開設やマネジメントプログラム開発を行う。2016年に株式会社ホロスプランニングに移籍し人材育成に力を注ぐ。シニアライフプラン研究所代表

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