【セミナー講師インタビュー】育児も介護も仕事も、自分の人生をあきらめない。長期化するダブルケアを乗り切るには?

育児や介護の重なる「ダブルケア」に直面する人が増えています。総人口が減少する中、高齢者の人口は増加を続けている日本では、今後ますますダブルケアに関わる人は増えていくことが予想されます。

子育てと介護、さらに人によっては仕事が重なった場合に、どの様に両立を目指すか?

介護職・看護師として病院や施設で勤務しながら、自身も育児と介護と仕事の重なるダブルケアを経験。その経験からNPO法人を設立し「育児と介護が重なる現役世代が、働き続けられる社会」の実現を目指して活動する室津瞳さんに、お話を伺いました。

目次

介護は当たり前。ダブルケアもマイノリティではない

―ダブルケアというのはどのようなことでしょうか?

ひとつの世帯で、同時期に育児と介護の両方に直面することです。広い意味においては、ひとつの家庭で複数のケアが行われている状態ととらえても良いでしょう。

例えば、60代、70代の方が親や配偶者の介護をしたり。高齢者が、現役世代に代わって孫の世話をしているケースもありますね。

―ダブルケアはもう当たり前の時代だとおっしゃっていました

今、ダブルケアやヤングケアという言葉が広がっています。主にヤングケアの方が認知度は高そうですが、どちらも理由は同じです。日本の人口が減っているのに対して高齢者の数が爆発的に増えているからです。子供も現役世代も高齢者も、すべての世代で介護があって当たり前の時代に入っています。

その中で、育児と介護と仕事の両立という問題を抱えている人は、マイノリティではありません。数年先には、結婚して子供を授かれば、ほぼ全員がダブルケアラーになるという時代がやってくるでしょう。

少し前の資料になりますが、内閣府の調査で育児と介護のダブルケアに携わっている人の数は25万3,000人というデータが出ています。ただこれは条件が狭く、育児は未就学児の育児、介護も身体的な介護に限定されています。

しかし、子育ての対象は未就学児だけではありません。

小学生だって子育ては必要でしょうし、中学生、高校生と思春期にはメンタル面でのサポートも必要です。受験もありますし、大学生になっても学費という経済面のサポートは続きます。このように実際の対象者はもっと多いと思っています。

また介護も、身体的な介護以外の負担も多いものです。

介護サービスの調整や施設探し、判断能力に不安を感じ始めた親の代わりに契約などもしなければなりません。このように実際にはマネジメント的な要素も含まれます。そう考えると、対象はもっと増えるでしょう。

「介護は当たり前。ダブルケアもマイノリティではない」ということ前提で考えておいた方が良いでしょう。

まずは、「家族だけでは乗り切れない」事実を知ることから

―室津さんご自身もダブルケアを経験されたそうですね?

私の場合、介護職として7年ぐらい、老人ホームなどで仕事をした後、看護師になりました。看護師として働いていたころに妊娠しましたが、そのころから父が入退院を繰り返し、医師から「もう2、3日ぐらいかもしれない」と言われたこともありました。

ただ、父の場合、孫に会いたいという思いが原動力になったようで、その後、奇跡的に人生を取り戻しています。介護状態から、家で犬の散歩を毎日できるぐらいまで元気になりました。

しかし、その3年後、すい臓がんが見つかりました。その時に、「積極的治療はもうしない。家族に迷惑をかけず、自分自身がやりたいことをして、悔いを残さないように生きていく」と決めました。タバコも吸って、好きな犬と孫に囲まれて「家で亡くなっていく」という選択をしました。

その当時の経験から、NPO法人こだまの集いを設立したのですね。こだまの集いではどのような活動をされているのですか?

私たちは「つなぐ」ということをミッションにしています。子育てと介護をつなぐ、子供と高齢者を現役世代とつなぐという感じです。

活動内容は、セミナー事業や執筆を通して、ダブルケアとは何か?ということをお伝えする活動。

次に、ダブルケア・カフェといって、ダブルケアの当事者の方たちが集まれるイベントの開催。これはオンライン、オフラインの両方で行っています。

子育て・介護のプロと一緒に、ダブルケアについて語り合えるダブルケアカフェ

そして3つ目が、ダブルケアラーさんの伴走サポートです。お話をお伺いして、必要に応じて専門職につなげる、という活動を行っています。

保育園の経営者やケアマネージャーなど、子育て、介護、福祉の専門家、そして介護経験者が集まっていますので、子供に関する相談であれば保育園経営者に聞いたり、介護についての相談は介護の専門家に聞いたりできます。

世の中には子育てのサポートも介護のサポートもありますが、それぞれ別々に存在し、活動しています。そのため、子育てと介護の問題が同時に起こった時に答えられる人は、実はそれほどいないのです。

私たちはそのつなぎ役として必要な人をつなぎ、話し合い、その中で解決する糸口を探していこうというチームです。

―ダブルケアを乗り切るためには、どうすれば良いのでしょうか?

まず、家族だけでは乗り切れないという事実を知ることです。

昔は家族の人数も多かったので、家の中でも支えてくれる人がたくさんいました。だからこそ、自宅での介護もできましたが、今は核家族が増え、共働きも当たり前です。

そのような状況の中でダブルケアを乗り切るためには、自分以外でできることを外注する力を身に付けることです。

ダブルケアを乗り切るためには、調整力やマネジメント力が鍵になると思っています。プレイヤーになるのではなく、マネジメントをするという意識が大切です。

経営者や管理職などマネジメント経験者は、複数の人をマネジメントして目標を達成していくという発想があります。育児や介護の問題も同じように、段取りを付けて、環境を整えることで乗り切れることは多いでしょう。

しかし、マネジメント経験がない人の場合、子育ても介護も「自分で全部やらないといけない」という発想になりがちです。さらに責任感の強い方だと、責任を一身に引き受けて、心と体が消耗してしまう状況に陥ってしまうこともあります。

ただ、この時「仕事を辞めれば対応できる」と退職を決意する方もいらっしゃいますが、私はおすすめしません。

―仕事を辞めた方が負担も減って、楽になるのではないでしょうか?

育児と介護はプロセスが全く違います。さらに仕事という全く異なるタスクを抱えているわけです。これはかなり大変なことです。

しかし、ここで仕事を辞めて育児と介護だけに絞ってしまうと、今度は家庭の中で、その人1人に育児と介護の負荷が集中してしまう恐れがあります。

子育て×介護×仕事を見える化する、オンラインのワークショップ

「誰が、何ができるのか?」を最初に理解しておく

―ダブルケアに直面したら、具体的にはどう動けば良いのでしょう?

まず、育児と介護が並んだ時は、先に介護から調整した方が早いと思います。

介護には、介護保険制度という仕組みがありサービスも充実しているので、育児と比べても負荷を減らしやすいです。ケアマネージャーという介護サービスを調整してくれる専門職の方がいるので、相談してご自身の負荷を減らしていきましょう。

タイミングとしては、親に「少しでも心配なことが現れたら」です。親が転んだとか、何度も同じことを言っているとか、久しぶりに会ったら小さくなっている気がするとか。何か気になることがあったら、早めに地域包括支援センターに相談に行くと良いでしょう。

行政によって名称も異なるので分かりにくいかもしれませんが、介護の専門家につながるというのは、最初にやっておくと良いです。

―最初に介護の負担を減らすのがポイントなのですね

そして子育ても1人でするのではなく、いろんな人と連携した方が良いですね。

方法としては、部分々々で助けてくれる人を探します。育児でやらなければならないことを細かく分解し、例えば保育園の送り迎えは家族にお願いするとか、緊急事態が発生した時には近所の人に子供たちを預かってもらうとか。そういったネットワークを作っていきます。

パートナーも大切です。ダブルケアは、男性、女性どちらの問題でもあるからです。

パートナーがもし親の介護に関わることが難しくても、育児をサポートしてくれるのであれば、子供を任せる時間を増やすとか。家事の負担を減らしてもらうのも良いですね。

―育児と介護の負担を平等に二等分するのではなく、それぞれの得意なことやできるところで、お互いがカバーしあうということですね

大事なのは、誰が何をできそうか?何ならできるのか?ということを理解することです。介護が始まった直後の方の相談を受けていて感じるのは、役割を明確にしないことで喧嘩になっていることが多いということです。

最初の段階で「誰が、何ができるのか?」を、ご家族で話し合えると良いですね。

その上で、情報を属人化させないために、チームで情報は共有します。私がダブルケアを経験していた時はLINEグループを使って、夫や兄と連絡を取り合っていました。

その上でさらにできたら良いのが、何のためのチームなのか、ゴールを共有することです。

例えば、私たちはチームの目的を「父が悔いの残らない人生を送るためのサポートをする」としました。父の意向を聞きながら、父が後悔しない人生を送るための選択をする。その目的を忘れそうになったらもう1回思い出して、また走り出すという具合です。

―長距離走を走っているみたいですね

介護はマラソンみたいなものなので、長期間走れる体力と気力を残していこうと思いました。

私たちの場合、トータル8年くらいでしたけど、中でも母の入院、手術と父のターミナルケアが重なった時期は結構きつかったです。もうちょっと期間が長かったら、倒れていたかもしれません。

また、長く走るには、「親のお金をどの時点で預かるか?」ということも重要です。

しっかりした親は、財産を子供にちゃんと引き継いでいきます。しかし、きちんと段取りを付けている人はごく一部でしょう。ほとんどの人は「財産は何もしなくても、ゆるやかに現役世代の子供たちにスライドできる」と勘違いしていますから。

―介護されていたお父様ご自身も、お子さんの世話をされていたと伺いました

関われる人が少ないので、介護される側の人も自分の役割を担い、チームの一員になります。確かに父はガンでしたが、子供の面倒はみられる。なので「お願い」って、頼みました。

チームの誰が、何ができるのかはきちんと見極めておいた方が良いですね。もちろん、状態によってできることは変わっていきますので、チーム内での各自の役割も時間とともに変わっていく可能性はあります。

―最後に子育てと介護などダブルケアでお悩みの方にメッセージをいただけますか?

現役世代は責任を背負える体力と気力、そして経済力がある方が多いのですが、親のため、子供のためと言って、自分の人生を後回しにしてしまう傾向があります。

しかし、長期化するダブルケアを乗り切るためには自分ファーストの考え方が大事です。自分の人生を諦めないで生きていく、そのための勇気を持つことです。フルマラソンを走るとしたら、自分の体も心も大事にしないと走れないですよね。

それと同じで、体と心が壊れると人生がストップします。

だから、まずは自分の人生を大事にする勇気を持つこと。その勇気を持つことができれば、長い道のりを走りきることができるのではないでしょうか。

―ありがとうございました

この記事をシェアする
  • URLをコピーしました!
セミナーのご予約はこちら
電話で予約
LINEで予約
目次
閉じる