【セミナー講師インタビュー】相続登記義務化の問題点「相続人に対する対策や救済措置も必要では?」

2024年4月1日から、相続で取得した不動産の登記が義務化されます。相続によって不動産の所有権を取得した相続人は、正当な理由がないにもかかわらず定められた期限内に申請をしなかった場合には、10万円以下の過料が科されることもあります。

今回、なぜ相続登記が義務化されたのか、また義務化にはどのような注意点があるのか、株式会社テイルウィンドの代表取締役で相続・不動産の総合コンサルトの古垣直久さんにお話を聞きました。

目次

今、手を打たないと、空き家問題はどうにもならないことになる

どうして今、このタイミングで相続登記が義務化されるのでしょうか?

まず、空き家問題が先にあります。その空き家問題に付随して、相続登記の義務化が決まりました。

現在、空き家が増えているのは、国の統計を見ても明らかです。空き家率は全国平均で13%以上。東京都や埼玉県、神奈川県などでは10パーセントほどで推移していますが、 地方都市では過疎化も進んでおり、自治体によっては15%以上が空き家ということもあります。

その理由は、少子高齢化です。高齢者はいずれ不動産を手放さざるを得なくなります。しかし若い人は実家から離れ、別に住まいを持って暮らしているため実家を顧みません。

相続が発生しても、お金になるような物件であれば手続きもするかもしれませんが、それほど良い値段では売れない土地となると、子どもも相続したがらないでしょう。

仮に相続したところで使うこともないので放置され、結果として、空き家の増加につながります。こうした空き家が今、社会的な迷惑の原因になっているのです。

“社会的な迷惑”というのは、具体的には管理されていない家屋の倒壊などで事故につながる危険があるということでしょうか?

倒壊などのほか、公共事業や災害復興などの妨げになるという問題もあります。所有者不在の土地は、所有者や相続人探しに時間がかかるため、必要な事業も思うように進まないといったリスクもあります。

いずれにしても、行政としては、何か問題が起きた際のために責任の所在を明らかにしておきたいということで、相続登記の義務化が始まるわけです。

持ち主がはっきりすれば、そうした問題はなくなりますね

せめて更地にでもなっていたら、空き家が放置されるよりは迷惑度合いも少なくなるでしょう。ところが、問題はそう簡単ではありません。

住む人のいなくなった家を相続してしまうと、空き家の管理だけでなく、固定資産税の負担も負うことになります。

固定資産税では、200平方メートル以下の土地の場合、住宅があると、土地だけの時にかかる税金の6分の1に軽減されるという制度があります(固定資産税の軽減措置)。言い換えれば、更地にしてしまうと税金が上がるので、所有者は例え空き家であっても壊さずに、そのまま残しておこうとします。

もちろん、人が住んでいるわけではないので、不具合があっても手を入れて修理をしようとはしません。結果的に劣悪な空き家が増えていくことになるわけです。

さらに、「面倒なことには巻き込まれたくない」「なるべくなら触れたくない」と、相続登記もせずにそのままにしてしまう。

こうして、所有者が不明となった土地は現在、九州の面積より大きくなっています。これが将来、日本の総面積の1/4にまで広がるのではないかと言われています。今、ここで手を打たないと、後からではもうどうにもならないことになります。

早めに相続登記をしておかないと、相続人が増えて大変なことに

かなり複雑なのですね。義務化されることで、相続登記は順調に進むのでしょうか?

もしもそれが価値のある土地であるなら、相続人も喜んで相続し、登記もするでしょう。しかし、そうでなければ難しいのではないでしょうか。

これはあくまでも私の考えですが、相続登記を義務化するなら義務化するで、相続人に対して何らか対策や措置があれば良いと思うのですが、その点については今のところ、特にありません。相続登記を怠れば罰金を科すという脅しはありますが……。

登記が義務化されるのは相続不動産のみですか?

義務化されるのは相続登記に限ってで、それ以外は任意です。自分の権利を守りたい人だけ登記すれば良いということになっています。 

普通に考えれば自分のお金で土地を買う場合、銀行でローンを組みますし、名義を変えないと担保設定もできません。

また贈与された場合も、プレゼントですから。後から「あげてない」と言われないように、証拠として名義を変更します。 

必要に迫られたり、自分にとって利益になることは、義務化されなくても自発的にやるでしょう。しかし、メリットがない場合は後回しになり、結局、空き家問題につながるわけです。

相続を知った時から3年間、正当な理由なく相続登記しない場合は罰金が課されると伺いました。例えば、義務化される前に相続した土地でも、登記をしていないと罰金が科されるのでしょうか?

措置法ですので、義務化が順調に進んで国に余裕が出てくれば、従前のものについても調べていくでしょうし、対象になるでしょう。

今、最後の登記がされてから50年以上経っている土地というのは中堅都市部で25%ぐらいあると言われています。50年も経っていれば、直近で記録されている人がご存命とは限りません。その中には新たに相続登記が必要な土地も、おそらくあるのではないでしょうか。

いずれにしても登記をしなければならないのであれば、早めに登記をしておいた方が良いでしょうか?

早いほうが良いでしょう。

2代、3代とさかのぼって、それこそ曽祖父の土地となると、相続人の数も増えていくわけです。早い段階であれば、多くても甥っ子、姪っ子程度ですむものが、相続登記をせずにそのままにしていると、代襲相続で相続人はどんどん増えていってしまいます。

誰が相続人かわからないので探すのも大変ですし、ようやく探し当てても「私が相続人なの?」と、どこに土地があるかもわからないような相続人もいます。

相続した土地を国庫に帰属させるのは現実的ではない?

例えば相続するときに気を付けた方が良い土地などはありますか?

リスクが大きいのは農業をしない方が農地を相続する場合です。

田畑は農地法という法律が関係してきます。休耕地にしていると、なぜ耕作していないのか、農業委員会等に報告する必要が生まれます。

さらに田畑は、 それが市街化区域であれば第三者に売ることもできますが、仮に市街化調整区域だった場合、第三者に売るにしても、農業従事者にしか売ることはできません。

農業従事者はどんどん減っており、「私がその土地を受けて農業します」と言う人もなかなかいません。転売もできないなら引き受けても仕方がないので、相続したくないというケースも増えているのです。

相続を優先させるためには、例えばこのケースに限っては農地法を改正して相続した土地が市街化調整区域だったとしても相続人は農業従事者以外にも転売ができるようにするなど、対策を考えても良いのでしょうが、今のところそういうことはありません。

相続したくない土地を、国が買い取るという制度もあると聞きました

相続土地国庫帰属制度ですね。行政としては、「受け皿を用意しておくので相続してくださいね」と、相続登記を促進する狙いがあるのでしょうが、その適用要件は「相続税の物納基準よりも厳しい」とみています。

「相続税の物納」というのは、原則、金銭で納付となっている相続税を、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合土地など、一定の相続財産による物納がみとめられているというという制度です。

昔は国も不動産売買の経験が少なく、いろいろな土地が物納で納められていましたが、結果として、売れない土地も引き受けてしまったのです。その反省もあって、今は物納要件の土地基準もかなり厳しくしています。

しかし、相続土地国庫帰属制度の場合、それよりももっと厳しい基準が設けられています。例えば、隣地とトラブルがあったらダメですとか、隣地の下水が通っていたらダメですとか、土地に小屋があったらダメですとか。

「相続はしたものの、国に引き取ってほしい」という土地は、やはり地方の土地が多いわけです。面積も相当広くなるので、測量するだけでも百万円単位の測量代がかかります。

測量だけでも百万円ですか?気軽にできる額ではありませんね

さらに測量するとなると「私の土地はここまでです」と決定するのに、接している土地の所有者も呼ばなければなりません。

相手によっては立ち会いに協力してくれない場合もあるでしょうし、例えば「昔、自分たちの時には協力してくれなかったじゃないか」と、そういった過去の問題まで出てきてしまうこともあります。

これは地方に限ったことではありません。都市部であっても、「親の代に協力してくれなかったから今、仕返しをする」などというケースはたくさんあります。仮にそういう人が1人でもいたら、対象要件を満たさなくなります。

さらに、国に対して、まず審査手数料も支払わなければなりません。国で引き受けるかどうか審査するだけで、国に引き取ってもらえない場合であっても、審査料は戻っては来ません。

それらをすべてクリアして、土地所有権の国庫への帰属の承認を受けた場合も、承認された土地の管理費用の一部、「国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して算定した額の負担金」を納付する必要があります。

不動産は相続したけれども現金は相続していないという人にとっては、その負担金を捻出すること自体、難しいわけです。相続して、土地を売って審査費用を支払おうとしても、その土地も売れないのです。

これらのことを理解できている人は、土地の価値によっては、相続放棄を選ぶのではないでしょうか?

不動産相続の問題解決には、その時々で、その時考えられるベストな方法を探すしかない

そのような売れにくい土地を扱っている不動産会社はあるのでしょうか?

一時期、「山を買ってキャンプをしよう」というのが流行りましたから、山を専門に扱う不動産会社はあります。全国の山を買い取って、インターネットで情報を発信して販売するということをしています。

しかし、最近は山を持つことのネガティブな面も発信され、啓蒙もされてきました。例えば「水はどうするの?」とか。やはりライフラインがないと、そのままでは住めません。以前よりは需要は増えても、どこかで頭打ちになるのではないでしょうか?

不動産を相続したら、とにかく価値があるかないかを判断して、無ければ早めに放棄する以外にないのでしょうか?

相続放棄をすると、すべてを放棄することになります。良いとこだけを相続することはできませんから、判断は難しいところです。

不動産の相続に関わる問題には、これという解決方法はありません。その時々で、その時考えられる最も良い方法を探すしかありません。自分1人だけで抱え込むのではなく、経験と知恵のある専門家に頼ることをおすすめします。

ありがとうございました

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