「先祖代々の土地を子へ、孫へ、さらには次の世代へと、半永久的に相続し、我が家で守り続けていきたい」という地主さんは少なくありません。このような地主さんたちの執念を目の当たりにすると、鎌倉武士の時代から脈々と伝わる「一所懸命」という言葉の重みを実感します。
今回は、少子化や価値観の多様化が進む中、先祖代々の土地を守っていくために必要な生前対策について、考えてみます。
未婚の子を持つ親同士の婚活
数年前、未婚の子を持つ親同士の「婚活」の会合を取材したことがあります。土曜日の昼間、都心の会議室に集まった約120名の参加者は60代~70代が中心。約60名ずつの2グループに分かれ、まるで関ヶ原で開戦を待つ東西両軍のように、静かに、しかしただならぬ気魄のようなものをみなぎらせて対峙しています。
東側のグループは、未婚の息子さんを持つ親御さんたち、西側のグループは未婚の娘さんを持つ親御さんたち。「皆さん、ほとんどが地主さんです」と、主催会社のスタッフが耳打ちしてくれました。
司会者の「それでは、はじめます」の開会宣言とともに、一斉に席を立ち、会場のあちこちで相手方と1対1で話を始める参加者の皆さんの様子は、さながら、そこかしこで一騎うちの勝負が行われている戦場絵巻のよう。ひとしきり話し合った後、次の相手を求めて足早に移動する……。
命のやり取りを思わせる真剣さが、会場にものすごい熱気を呼び、私はただ、立ち尽くすだけでした。
そんな中、会場の熱気から取り残されたようにポツンとひとりで座っている男性を見つけ、声を掛けてみると、「ウチのひとり娘は42歳。私たち土地持ちは、子供が結婚するだけではダメなんです。跡継ぎになる孫が生まれてくれないと……。娘の年齢を考えると、条件は年々厳しくなっていくばかり。20代の頃に、無理にでも婿を取らせれば良かった」とうなだれる男性の頭上を「女性の年齢を35歳で区切ると選択肢が狭まりますよ。36歳以上でも、いい方はたくさんいらっしゃいますからね」という司会者の声が通り過ぎていきました。
二次相続以降の財産の承継先の指定ができる家族信託
口に出すか出さないかは別として、「子供が結婚するだけでは不十分。跡継ぎとなる孫が生まれてくれないと」という考えを持つ地主の方は、一定数います。
仮に、長男と次男に平等に所有不動産を相続させたいと考える山田さんという地主さんがいるとします。
山田さんは、同じくらいの価値を持つ土地Aを長男(既婚者、子供なし)に、土地Bを次男(既婚者、子供あり)に相続させようと考えていますが、長男に子供がいなければ、長男に相続した土地Aは、長男の配偶者に相続されます。
そうなると、山田さんの中に「山田家が一所懸命で代々守ってきた土地Aが、外から来た者の手に渡るとは!」という感情が芽生えるかも知れません。
こうした事態の解決策として、家族信託が有効とされることがあります。二次相続以降の財産の承継先の指定ができる「受益者連続型信託」というもので、おおよそ以下のようなオペレーションとなります。
まず、山田さんは、自分を委託者兼受益者、次男を受託者として、土地Aを信託します。山田さんの存命中、次男は山田さんのために土地Aを管理します。山田さんは、信託の受益者であり、信託した財産から発生する利益を受け取る権利(受益権)を持っているため、自分が亡くなった後の受益権の引継ぎ先を決めておく必要があります。
この受益権の引継ぎ先について、信託契約書に「長男」と書いておけば、山田さんが亡くなった後、次男は、受益権を引き継いだ長男のために土地Aを管理することになります。信託財産から得られる利益は、原則、全て受益者のものとなるため、次男が管理している土地Aは、経済的には長男のものとなります。
さらに、「長男が死亡した場合、この信託は終了する」と信託契約書に書いておきます。家族信託契約では、信託が終わると、受託者が管理している財産を誰が取得するかを記載しておくのが一般的です。「次男の子(山田さんの孫)が取得する」と記載しておけば、最終的に土地Aは、山田家に生まれた次男の子の財産とすることができ、山田さんも納得の二次相続プランが実現できることになります。
まとめ
少子化や価値観の多様化が進む中で、先祖代々の土地を守り続けていくためには、しっかりとした生前対策が必要です。家族信託(受益者連続型信託)もその1つ。ご興味をお持ちの方は、シニアと家族の相談室まで、お気軽にご相談ください。