不動産を相続する際、複数の相続人による共有分割が選ばれるケースがあります。しかし、安易に共有分割を選択してしまうと、後々トラブルに発展してしまう場合も少なくありません。
今回は、相続不動産の共有分割のリスクと、トラブルを未然に防ぐ方法についてご説明します。
相続不動産の共有分割とは?
相続財産の中には、現預金や有価証券のように分割しやすい財産がある一方、分割が難しい財産もあります。その代表格が不動産です。不動産が自宅だけなのに相続人が複数いる場合、どのように分割するかが論点になります。
また、自宅以外に賃貸不動産も存在する場合、誰がどの不動産を相続するかで、遺産分割協議がまとまらない可能性もあります。特に、相続財産の構成が不動産に偏っており、相対的に金融資産が少ない場合、遺産分割トラブルが発生しやすい傾向があります。
「いやいや、不動産も簡単に分割できますよ」と言わんばかりに、不動産を相続分に従って共有取得している事例が散見されます。このような分割手法を「共有分割」と言いますが、極力避けたい手法です。
共有不動産は、売却するにせよ、賃貸するにせよ、共有者全員の同意を必要とします。共有者間の仲が良く、コミュニケーションも円滑である場合は良いのですが、いったん人間関係が悪化したり、代替わりでコミュニケーションを取りづらい共有者が入ってきたりすると、共有者全員の合意形成が難しくなり、トラブルに発展することもあるのです。
共有不動産は元気なうちに「出口戦略」を
しばらく前に、60代後半お客様からご相談をいただきました。約10年前にお母様が亡くなられた際、ご自身を含む3兄妹が、ご自宅(相続後、賃貸)と賃貸アパートを相続されたそうですが、いずれの不動産も、1/3ずつの持ち分による共有となっていました。
司法書士さんから「一番楽な方法だから」と勧められ、共有分割の手法を取ったそうですが、「自分自身の相続対策を考える上で、共有不動産の存在は問題であると考えるようになった。幸い、兄妹は3人とも元気でコミュニケーションも取れているので、今のうちに対応を協議しておきたい」とのことでした。
結局、3兄妹で話し合った結果、両物件とも売却し、売却代金を平等に分けることとなりました。今般、いずれも希望価格を上回る価格で売却が完了したそうです。
上記の事例では、3兄妹が皆さんお元気で、円滑なコミュニケーションが取れていたから良かったものの、共有者の一人が認知症を発症したり、亡った後、疎遠な相続人が共有者に入ってきたりして、一筋縄ではいかなくなっている事例もあります。
もし、共有不動産をお持ち場合、共有者全員が元気なうちに、「出口戦略」について話し合ってみることをお勧めします。
共有不動産のトラブル回避!「親族間売買」とは?
共有者の中に高齢で認知症発症リスクが懸念される人がいる場合、遠隔地在住で今後ますます疎遠になっていくことが危惧される人がいる場合など、他の共有者がその人の持分を買い取り、共有者から外してしまう「持分売買」も有効な生前対策の手法です。
多くの場合、売り手・買い手が親子、兄弟といった親族関係にあり、このような「持分売買」は「親族間売買」と呼ばれます。
「親族間売買」の主な留意点は2点。1つ目は売買価格の設定。市場価格とかけ離れた低廉な価格で売買した場合、売買したつもりが贈与とみなされ、「みなし贈与税」がかかってくる可能性もあるので注意が必要です。
2つ目は買主が購入資金を金融機関から借り入れるのはかなりハードルが高いということ。売主・買主が親族同士という近しい関係にあるため、双方が結託し融資した資金が持分売買以外の使途に流用されるリスクなど、通常の住宅ローン等と比べ、懸案事項の多い融資案件とみなされているからです。
「親族間売買」案件には全く対応しないという金融機関も多いため、買主の資金調達が前提となるような場合は、事前に金融機関に相談してみることをお勧めします。
まとめ
このようにやっかいな「不動産の共有」は、できる限り避けたいもの。相続時に共有状態となるリスクを未然に防ぐために、遺言を活用した相続対策を講じておくことも重要になると思います。「自宅は長男に、賃貸アパートは長女に、賃貸駐車場は次男に」というように、「どの不動産を誰に相続させるか」指定しておくことで、複数の相続人による不動産の不用意な共有を防ぐことができます。
「不動産の相続対策ができていない」「遺言を作成し、不動産を誰に相続させるか、指定しておきたい」という方は、シニアと家族の相談室にお気軽にご相談ください。