遺言書には、「法的遺言事項」と「付言事項」という2種類の記載があります。
主な法的遺言事項は、「相続分の指定」「遺産分割方法の指定」「非嫡出子の認知」「相続人の廃除、廃除の取消し」「遺言執行者の指定」「祭祀承継者の指定」などで、法的拘束力を有します。
一方、法定遺言事項以外の記載事項である付言事項には、法的拘束力がありません。
「遺族への感謝の気持ち」「遺言書を作成した経緯」「死後の手続きの希望」などについて、遺言書の末尾に記載するのが一般的です。
詳しく見ていきましょう。
相続トラブル防止策としての付言事項の役割
付言事項には、相続における感情的なトラブルを避ける効果が期待されます。例えば、相続財産が自宅と銀行預金のみであるケースを考えましょう。長女Aには自宅、次女Bには銀行預金を相続させる旨の遺言書が残されていた場合、銀行預金の金額が自宅よりも少なければ、次女Bが不満を抱く可能性があります。しかし、以下のような付言事項があれば、Bも親の思いを理解し、争いを避けられるかもしれません。
例1:【付言事項】
「私が要介護状態になってから、Aは私と同居し、介護に尽くしてくれました。本当にありがとう。Aは独身で持ち家もないので、この家を相続し、このまま住んでもらえたらと思います。古い家なので今後、リフォームが必要だと思うけれど。Bに相続してもらう銀行預金は、孫たちの教育資金などに使ってもらえたらと思います。銀行預金の金額は、自宅の価値と比べたら、小さいかも知れません。でも、Bはどうか不満に思わないでください。AもBも私にとってはかわいい娘。これからも2人仲良く助け合って暮らしてください」
このように、親の考えや理由を丁寧に説明することで、相続人同士の理解が深まり、対立を避けることが期待されます。
付言事項が相続人を苦しめたケース
一方で、付言事項の内容が相続人にとって大きな負担となる場合もあります。
ある子供のいない夫婦の実例です。ご主人は「全財産を妻に相続させる」という遺言を残し、奥さんは円滑に相続手続きを進めましたが、問題は遺言書の付言事項に記載されていたご主人の希望です。
例2:【付言事項】
「私の遺骨は父母の眠る〇〇霊園に納骨してください。また、甥のXに連絡して、お前(=奥さん)の死後、うちのお墓を承継してもらえるように、頼んでください。Xが断った場合は、その弟Yに依頼してください。私が心血を注いで建てたお墓なので、必ず甥のどちらかに継がせてください。」
奥さんはご主人のお墓への思いを理解していたものの、子供がいないため、将来的に墓じまいをして永代供養墓に移すことを考えていました。「それなのに、よりによって、遺言にこんなことを書くなんて・・・」。奥さんは当惑してしまいました。ご主人は商社マンだったことから、ご夫婦は海外生活が長く、奥さんは甥御さんたちとは面識がありません。「相手がどんな人かもわからないのに、こんな一方的なお願いなんてとてもできない・・・」と奥さんはどうしても甥御さんたちに電話することができませんでした。付言事項に法的効力がないことはわかっていましたが、生前、亭主関白で癇癪持ちだったご主人の顔が脳裏に浮かび、奥さんを責め続けます。悩みは日に日に深刻化し、奥さんはとうとう心療内科に通うほどになりました。事情を知った心療内科の先生から紹介してもらった弁護士の助けを借り、現在、甥御さんたちと調整を図っているところです。
まとめ
遺言書の付言事項は、相続人に対する思いや死後の手続き等についての希望を伝えるための有効な手段であり、上手に活用することで、相続トラブルを防止することも可能です。
しかし、遺言者の希望が実現困難な内容、相続人の意向と大きく異なる内容である場合、相続人を苦しめ、混乱を招いてしまうリスクがあります。また、特定の相続人への非難を含むような場合、非難された相続人は面白いはずがなく、相続人同士の対立に発展することもあります。
遺言書の作成にあたっては、付言事項の内容についても慎重に検討し、相続人の負担を考慮した内容とすることが大切です。
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