高齢化が進行する中、相続人に認知症の方が含まれるケースが増えています。
認知症の人は判断能力が不十分であるため、その意思表示は法的には無効とされます。しかし、遺産分割協議は相続人の全員で行うこととされており、認知症の相続人を除外して行うことはできません。このようなケースでは、遺産分割協議を行うため、成人後見人を選ぶ必要がある場合もあります。
この記事では、相続人の中に認知症の人がいるケースについて考えてみます。
代理人の選任と注意点
相続が発生し、相続人の中に認知症の人がいる場合、代理人の選任が必要になります。具体的には、家庭裁判所に成年後見人選任の申し立てを行う(法定後見)ことになります。
申し立てを行う際に、成年後見人の候補者を指定することはできるのですが、遺産の規模が一定額以上である場合などは、裁判所が選任した専門家(弁護士、司法書士など)が成年後見人に就任することが多いのが実情です。実際、見ず知らずの専門家が成年後見人に就任するケースは、全体の約7割を超えるとされています。
成年後見人の選任手続きには数ヶ月を要することもありますし、費用も掛かります。
ただでさえ大変な相続手続きが更に複雑化することになりますが、相続税の申告期限(被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内)までに遺産分割が終わらない場合、「小規模宅地等の評価減」、「配偶者の税額軽減」等の税法上の特例が使えないケースがありますので、注意が必要です。
遺言書があれば遺産分割協議は不要
相続人の中に認知症の人がいる場合、被相続人が元気なうちに、遺言書を書いておくという対策が有効です。遺言書が残っていれば、その内容に従い、相続人は遺産を受け取ることになりますので、遺産分割協議が不要となります。
2年ほど前、奥様が認知症であるというAさんからご相談を受け、公正証書遺言の作成をお手伝いしたことがありました。書き終えて約半年後、Aさんは末期がんが見つかり、ほどなく亡くなりました。
賃貸用不動産を複数所有するなど、Aさんの資産構成はかなり複雑だったのですが、遺言書があったおかげで、Aさんの相続手続き(相続人は奥様とお子さん2人)はスムーズに進み、相続税の申告期限までに余裕を持って終えることができました。
また、遺言書の作成に先立ち実施した相続税シミュレーション(税理士に依頼)を踏まえて策定したAさんの相続税対策は、税法上の特例を活用することを前提とした内容でしたが、こちらも思惑通りの成果を上げることができました。
厚生労働省研究班の調査によれば、認知症の患者数は2030年に推計523万人に達し、認知症の予備軍とされる軽度認知障害(MCI)の患者数も含めるた場合、認知症患者数は2030年に1,100万人を超す勢いであるとのことです。
備えあれば、憂いなし。元気なうちの対策が重要だと思います。
まとめ
相続人に認知症の方がいる場合、遺産分割協議の際には代理人の選択や手続きに時間と費用がかかります。しかし、遺言書があれば遺産分割協議を省略でき、スムーズに進むため、早めの対策が重要です。遺言書の作成をご希望の方は「シニアと家族の相談室」にお気軽にご相談ください。