寄与分をめぐる相続争い。家族の平和を守るための準備とは?

相続人間で被相続人の介護の貢献度に大きな差がある場合、遺産分割協議の際にトラブルに発展することがよくあります。ある家族の事例をもとに、トラブルの要因と未然に防ぐ生前対策について考えてみたいと思います。

目次

典型的な事例におけるそれぞれの言い分は?

姉と弟の2人きょうだい。父は既に他界。独身の姉は実家で母と同居。仕事との両立に悩みながら、在宅介護に取り組んでいました。弟は、実家を出て配偶者や子どもたちと一緒に暮らしており、介護にはノータッチ。そんな中で母が亡くなりました。相続財産は実家の土地・建物(時価3,500万円)と銀行預金(1,500万円)。遺産分割協議で双方の主張がぶつかります。

姉の言い分

介護に尽くした私への感謝の気持ちとして、母は常々「この家はあなたが相続してね」と言っていた。私が実家を相続し、あなたは銀行預金を相続するのが妥当。

私の「寄与分(被相続人の財産の維持や増加に貢献した相続人がいる場合、その相続人の法定相続分に寄与した分を上乗せできる制度)」を認めて欲しい。

弟の言い分

同居をいいことに、生活費の一部を母の財布から賄っていたのでは?

平等な遺産分割が妥当。

実家に住み続けたいなら、実家を相続しても構わないが、代償分割(特定の相続人が不動産などの現物財産を相続する代わりに、他の相続人に代償金を支払って調整する遺産分割の方法)を行うべき。代償金1,000万円を支払って欲しい。

かなり高い「寄与分」認定のハードル

寄与分には、「療養看護型」「家事従事型」「金銭出資型」「扶養型」「財産管理型」などのパターンがありますが、寄与分が認められるためには、以下の要件を全て満たす必要があります(ちなみに①については、2019年7月1日に施行された相続法改正の中で、「特別寄与料」の制度が創設され、法定相続人以外の親族が特別寄与料を請求できるようになりました)。

①相続人による行為であること

②相続人の行為が「特別の寄与」といえること

③被相続人の財産が維持され、または増加したこと

④②の「特別の寄与」と③の「被相続人の財産の維持・増加」との間に因果関係がある

こと

問題は②と③です。②については、相続人間の話し合いによって決めることになりますが、話がまとまらない場合、家庭裁判所における調停や審判を通じて決着をつけることになります。

療養看護型の場合、「法律で義務付けられた扶養義務の範囲を超える行為であるかどうか?」がポイントで、「無償性」「継続性」「専従性」などについても問われることになります。

③については、「通常ならヘルパーを頼むところ、全て自分で介護を行った結果、5年間で300万円節約できた」といった合理的な根拠が必要になります。なお、「被相続人の入院費用を立て替えていた」といった場合は、金銭出資型の寄与分を主張することもできますが、遺産分割協議の中で単純に清算するのが一般的です。

寄与分の認定においては、被相続人の感謝の気持ちといった要素は、加味されません。今回の事例の場合、家庭裁判所の調停や審判で姉の寄与分は認められず、弟の主張に近い形で決着するものと思われます。姉には不満が残り、姉弟の仲に亀裂が入るかも知れません。

親子で考える生前対策

今回の事例でトラブルを未然に防ぐためには、以下のような生前対策が考えられます。認知症等で親の判断能力が衰えてしまうと対策は打てなくなりますので、介護を受ける親と介護に携わる子とが連携し、早めの対策を打つことが重要です。

遺言の作成

まず考えられるのが、「実家の土地・建物は姉に。銀行預金を弟に」という内容の遺言作成です。

この内容なら、弟の遺留分(一定の相続人に認められた最低限の遺産取得分)を侵害する心配はありません。また、遺言には、家族へのメッセージなど、法的効力を及ぼすことを目的としない「付言事項」を盛り込むことも可能です。

「面倒を見てくれた姉に感謝しており、相続発生後も住み慣れた実家で安心して暮らして欲しいとの思いから、実家は姉に相続させる。ただし、姉には配偶者も子もなく、姉の相続の際、姉の財産は弟または弟の子どもたちが相続するのだから、今回は納得して欲しい」といった付言事項を記載しておけば、弟の理解も得られやすいかも知れません。

生命保険の活用

寄与分認定のハードルが高く、弟の言い分に近い遺産分割になるということを見越し、姉を受取人とする保険金額1,000万円の生命保険(一時払い終身保険)に加入しておくという対策も考えられます。

生命保険の死亡保険金は、受取人の固有の財産となり、民法上は遺産分割協議の対象となる相続財産とは区別されます。この死亡保険金を活用し、姉は弟に対する1,000万円の代償金の支払いを円滑に行うことができます。

まとめ

今回の事例において、被相続人の介護に多大な貢献をした姉と、介護には関与しなかった弟との間で、遺産分割協議がトラブルに発展する可能性が浮き彫りになりました。

寄与分の認定には高いハードルが存在します。こうしたトラブルを未然に防ぐためには、親子間での生前対策が不可欠です。遺言書の作成や生命保険の活用といった具体的な方法を通じて、遺産分割時の円滑な調整を図り、家族間の不和を回避することが重要です。

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