遺言書には、家族への感謝の気持ちや、相続に対する思いを「付言事項」として記載できることをご存じでしょうか。法的な効力は持ちませんが、家族に対するメッセージや遺産分割に関する希望を明確に伝えることで、相続トラブルを防止する効果があると言われています。今回は、付言事項の役割とその重要性について解説します。
法定遺言事項と付言事項の違い
遺言書に記載できる事項は、大きく2つに分けられます。まず、「法定遺言事項」です。これは、遺言に記載することで法的な効力を持つ内容を指します。具体的には、以下のような事項が法定遺言事項に該当します。
・財産に関する事項:相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈など
・身分に関する事項 :非嫡出子の認知、相続人の廃除やその取消し
・遺言執行者に関する事項: 遺言執行者や祭祀承継者の指定など
これらは遺言書に記載することで法的な効力を持つため、相続の手続きに直接的な影響を与える内容です。
一方、「付言事項」は、法的な効力を持たないものの、遺言者の思いや家族に対するメッセージを伝えるために重要な役割を果たします。たとえば、以下のような内容が付言事項として記載されることが一般的です。
- 遺族への感謝の言葉
- 遺言書を作成した背景や理由
- 相続に対する願い
- 葬儀や納骨に関する希望
付言事項は主に、相続人が遺言者の思いを理解しやすくするためのものです。法的な効力はありませんが、相続トラブルを防ぐために役立つことが期待されています。
付言事項の具体例
付言事項が相続トラブル防止にどのように役立つのか、具体的なケースを見てみましょう。
たとえば、父親が「長女のAに自宅(時価1,500万円)を、次女のBに銀行預金(500万円)を相続させる」という遺言書を作成した場合を考えてみます。Aは未婚で、両親と同居し介護に尽力してきました。一方で、Bは家庭を持ち、遠方で暮らしています。この状況では、相続する財産の価値が異なるため、Bが不満を抱く可能性があります。
しかし、以下のような付言事項が遺言書の末尾に記載されていれば、Bは父親の思いを理解し、不満を抱くことなく納得するかもしれません。
【付言事項の例】
「Aは長年、私たち両親の介護をしてくれました。本当にありがとう。Aは独身で、持ち家がないため、自宅をAに相続してもらい、この家に住み続けてもらいたいと考えています。Bには相続する金額が少なくなってしまい申し訳ないと思っていますが、Aが亡くなった後、この家はBまたはBの子供に相続されることになります。どうか不満を持たず、姉妹仲良く助け合ってほしいと願っています。」
このような付言事項があることで、AとBの間での不公平感が緩和され、感情的な対立を避けることができるでしょう。
注意すべき点
ただし、付言事項の内容には注意が必要です。言葉選びを誤ると、かえって相続トラブルを招くリスクがあります。たとえば、次のような付言事項は避けるべきです。
「Bは遠方に住んでいて、私たちの介護にはほとんど関与しなかった。本来ならば何も相続させたくないが、仕方なく預金を相続させることにする。」
このような表現が記載されていると、Bが感情的に反発し、相続の手続きが円滑に進まなくなる可能性があります。付言事項は家族間の関係を良好に保つために記載するものですので、感情に配慮した丁寧な表現を心がける必要があります。
まとめ
付言事項は、法的な効力を持たないものの、相続トラブルを防ぐために重要な役割を果たします。遺言者の思いや家族に対する感謝の気持ちを伝えることで、相続人同士の感情的な対立を和らげ、円満な相続を実現する可能性が高まります。ただし、記載内容には十分な配慮が必要であり、言葉選びを誤ると逆効果となることもあります。
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