おひとりさまの老後の財産管理を考える:任意後見制度と家族信託の比較

認知症リスクを身近なものとして考えざるを得ない昨今、「成年後見制度の仕組みについて知りたい」という問い合わせが増えています。今回は、任意後見制度の留意点について、家族信託と比較しながら見ていきたいと思います。

目次

任意後見制度の現状と課題

現在、登記されている任意後見契約の数(閉鎖登記を除く)は10万件を超えているとされています。

また、法務省、最高裁の調査等によれば、年間の任意後見契約の登記件数は、2015年に1万件を突破し、その後もコンスタントに1万件~1万4千件程度の水準をキープしています。

これに対し、ここ数年の任意後見監督人選任申立の件数は、年間700~800件程度と不自然に低い水準です。

本人の判断能力が衰え、本来は任意後見監督人を選任すべき状態になっているにもかかわらず、任意後見監督人選任の申立がなされていない事案が相当数に上ることがうかがえます。

任意後見監督人選任申立手続きの煩雑さ、契約発効後に発生する任意後見監督人への報酬の支払いや報告負担などを嫌い、任意後見契約をあえて発効させず、本人のための財産管理等をできる範囲で行っている親族が多いのかも知れません。

認知症対策の手法として魅力的な面も多い任意後見制度ですが、現段階では、まだまだ使い勝手が悪く、実利用が進んでいるとは言い難い状況です。運用の改善や法改正の必要性を訴える識者の声もあります。

家族信託の柔軟性と活用例

一方、柔軟な老後の財産管理の手法として、最近脚光を浴びているのが、家族信託です。

家族信託は、「財産を信頼できる家族に託し、託された家族が信託の目的に沿って、その管理・処分を行う財産管理の方法」で、財産を託す人を「委託者」、託される人を「受託者」、信託から利益を受ける人を「受益者」、託される財産のことを「信託財産」といいます。

親(委託者)が自らを受益者として、子(受託者)に財産管理を託すケースが一般的で、親が元気なうちに親子間で信託契約を締結します。

親が居住している親名義の自宅を子に信託する場合、自宅の名義は「受託者である子」に変わりますが、子はあくまでも親のために管理・運用・処分を行うことから、名義が変わっても贈与税は発生しません。親の介護施設入居に際し、自宅の売却が必要となった場合、「登記簿に記載された名義人=受託者である子」が単独で売却手続きを行うことができます。

このため、親の判断能力が衰えた後でも、売却手続きが滞ることはありません。売却代金は、子が管理する家族信託用の口座で受け取ることができ、以後、親のために活用することができます。

なお、家族信託には身上監護(介護、医療などに関するサービスを受ける上で必要な契約の締結等)の支援機能がありませんが、家族がいる人の場合、介護施設の入居契約などは、家族としての立場で対応できることが多く、大きな問題が生じるリスクは低いと思われます。

まとめ

任意後見監督人選任申立手続きの煩雑さ、契約発効後に発生する任意後見監督人への報酬の支払いや報告負担などがネックとなり、任意後見制度は、現段階では、まだまだ使い勝手が悪い面があり、実利用が進んでいるとは言い難い状況です。

一方で、柔軟な財産管理が可能な家族信託が注目されるようになってきています。家族信託を活用した資産凍結リスク対策にご興味がある方は、シニアと家族の相談室まで、お気軽にご相談ください。

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