もしも行方不明の相続人がいたら、遺産分割協議はどうなる?

遺産分割協議を進めたいけれど、行方不明の相続人がいる……。そんなとき、どうすればいいのでしょうか?

遺産分割協議は相続人全員の同意が必要で、一人でも欠けると成立しません。このため、行方不明の相続人がいる場合、その人を除いて遺産分割協議を行うことはできず、対応が必要となります。

この記事では、行方不明の相続人がいる場合の遺産分割協議の進め方について、わかりやすく解説します。

目次

<対応1>不在者財産管理人選任の申立て

行方不明の相続人が生存している可能性が高く、行方不明になってから7年未満である場合、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申立てます。

ここでいう「行方不明」とは、単に「住所も電話番号もわからない」というだけでは不十分です。「戸籍の附票(住民票上の住所の変遷が記載されている)で確認した住民票上の現住所に住んでいないことが判明し、転居先の手掛かりも全くない」というようなケースが該当します。

不在者財産管理人選任の申立てにあたっては、利害関係のない人を候補者とすることができ、家庭裁判所が認めれば、候補者が不在者財産管理人に選任されます。

候補者がいない場合は、家庭裁判所が、弁護士、司法書士等の専門家を選任することになります。不在者財産管理人が選任されたら、家庭裁判所に権限外行為の許可(※)を得た上で、行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議に参加してもらい、遺産分割協議を成立させます。一連の手続きには、通常、数ヶ月を要します。

(※)不在者財産管理人の役割は不在者の財産の管理・保存です。遺産分割協議に参加し、

遺産分割協議を成立させる行為は、権限外行為となるため、家庭裁判所に権限外行

為許可の申立てを行う必要があります。

【留意点】

(1)弁護士、司法書士等の専門家が不在者財産管理人に選任された場合、報酬や事務経費

等は、不在者の財産から支払うことになりますが、支払いきれないと家庭裁判所が判断

した場合、これを補う予納金を家庭裁判所に納付する必要があります。予納金の金額の

目安は20万円~100万円程度で、申立人の負担となります。

(2)不在者財産管理人は、不在者の利益を保護する必要があります。遺産分割における行

  方不明の相続人の取得分は、法定相続分以上を確保する必要があります。

(3)不在者財産管理人の業務は、遺産分割協議が成立すれば終了というわけではなく、「不在者が見つかる」「不在者の死亡が確認される」「不在者の失踪宣告がなされる」「不在者の財産がなくなる」といった終了事由が発生するまで継続します。弁護士、司法書士等の専門家が選任された場合、報酬の支払いが継続することになります。

<対応2>失踪宣告の申立て

生死が7年以上不明である場合、行方不明の相続人の住所地または居所地の家庭裁判所に失踪宣告の申立てを行うことができます(普通失踪)。

なお、戦争や船の沈没事故、震災等に遭遇した場合は、その危難が去ってから1年を経過しても生死不明である場合、失踪宣告の申立てを行うことが可能です(特別失踪)。

行方不明の相続人が失踪宣告を受けた場合、法律上、「死亡したもの」とみなされ、相続人から除外されることになります。当該相続人に子供がいる場合は、代襲相続人として、遺産分割協議に参加できるようになります。

失踪宣告の申立てがなされた後、家庭裁判所による調査、公示催告等の手続きを経て、最終的に失踪宣告の審判が確定するまでには、1年程度の期間を要することもあります。

【留意点】

失踪宣告がなされた行方不明の相続人が見つかった場合、失踪宣告の取消の申立てが家庭裁判所に認められると、その人の法律上の権利は復活します。

行方不明の相続人を死亡したものとみなして遺産分割協議を行い、取得した相続財産については、その利益が残っている限度(「現存利益」)においてのみ、返還義務が生じます。仮にその相続財産をギャンブルで使い果たしてしまった場合、返還の必要はありません。

しかし、生活費として使った場合は、自分本来の財産を使わずに済んだ分が現存利益となり、返還が必要です。

行方不明の推定相続人がいる場合の対策

行方不明の相続人がいる場合の手続きがいかに大変か、おわかりいただけたと思います。かなりの時間がかかるため、相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに遺産分割協議がまとまらない可能性もあります。

この場合、未分割のまま、相続税の申告・納税を行うことになりますが、「配偶者の税額軽減の特例」「小規模宅地等の評価減の特例」といった相続税額を小さくできる特例を使うことができないため、納税額が大きくなってしまうこともあります(遺産分割協議成立後、特例を活用して申告をやり直し、差額の還付を受けることは可能です)。

行方不明の推定相続人がいることがわかっている場合、相続発生後に遺産分割協議をしなくても済むように、被相続人が元気なうちに遺言を作成しておいてもらうことをおすすめします。

相続や遺産分割に関してお悩みの方は、ぜひ「シニアとご家族の相談室」にご相談ください。専門家が丁寧にサポートいたします。

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